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バイマンスリーワーズBimonthly Words

家庭に愛を 職場に信を

2006年01月

新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお付き合いいただきますようお願い申し上げます。

さて早速ですが、今回は経営に携わる私達が忘れてはならないこの方の話題から入ります。
「経営学の父」と呼ばれ、世界の経営者に多大なる影響を与えてきたピーター・F・ドラッカー教授が昨年11月11日、老衰のために95歳で亡くなりました。マネジメントを発明し、マーケティングや目標管理など今では当たり前に使われている概念を理論づけた氏は、日本画のコレクションを持ち、同時に日本的経営を高く評価していた親日家でもありました。
ドラッカー教授は晩年、21世紀を迎えた日本の経営者に対して次のように語っています。

「日本には三つの重要な強みがある。第一は急激な変化に適応する能力であり、第二は学ぶ能力がある。そしてこれら二つの強みは、もう一つの第三の強みを基盤にしている。それは、コミュニティを大事にしていることだ。日本企業の優れた特質は企業が家族、つまりコミュニティとして機能している。ところが今日の日本について私が一番気にしていることは、この企業のコミュニティが急速に失われていくのではないかということだ。」
家族意識が日本企業の強さの根底にあることを見抜いていた氏は、それが近年急速に薄らいでいるのではないかと憂慮していたのです。

バブル経済までの日本企業は終身雇用を前提に、愛社精神に溢れた優秀な社員を育てることに重点が置かれていました。親睦のための忘年会や慰安旅行は当たり前の会社行事であり、熱心な会社では家族や取引先を巻き込んだ大運動会を開いていました。欧米のビジネスマンには、「なぜ家族以外の他人と一緒にこんな時間を過ごすのか?」と奇妙に写ったそうです。
各職場には、たいてい宴会部長がいて、時には社長自らがドジョウすくいや裸踊りで場の雰囲気を盛り上げる会社もありました。多くの社員もそんな雰囲気が楽しみでしたし、経営者もその重要性を充分に感じていました。
このような活動を通じて組織への帰属意識が育まれ、日本企業の総合力になっていったのです。

相手の波長に合わせるのが日本的コミュニティ

ところが最近、忘年会や慰安旅行を企画しても喜んで参加する社員が減り、運動会を開くような会社はめっきり少なくなりました。

もちろん、経営の現場で力を発揮することが本筋ですので、忘年会や慰安旅行は潤滑油にすぎません。しかし、ドラッカー教授が憂慮した「コミュニティの欠如」や「帰属意識の低下」といった問題が現実味を帯びてきた現象なのかもしれません。

人々の価値観が多様化し、総じて個人主義の傾向が強くなっている上に、誰だって気の合わない上司や部下と一緒に遊んでも心の底から楽しくありません。「そんなことにお金を使わずに現金でくれたらいいのに…」と打算的な考えをする人も出てくるでしょう。このまま続くと「会社は単に給料を稼ぐところ」「与えられたことだけやっておればいい」といったムードになり、働く人々の気持ちがバラバラになってしまいます。その時が会社の存続が決まる分岐点になるでしょう。

大事なことなのでもう一度考えてみます。

気が合わない相手だからといってコミュニケーションを避け、気の合う人とだけ付き合うような人間を育ててしまっていいのでしょうか。

少々気が合わないタイプの人でも、相手に合わせる努力を続けているうちに、知らなかった一面を発見することもあります。そうするうちに相手もこちらに合わせてくれるようになって、お互いの信頼関係が出来上がってくることがあるのではないでしょうか。

それはオーケストラの指揮者と演奏者との関係のようなものかも知れません。はじめは全く気が合わない人もいるでしょうが、練習を積んでいくうちにだんだん波長が合うようになるのです。

また餅つきで杵を持った「つき手」と、声をかけて餅をこねる「合いの手」とのコンビネーションとも似ています。ひとつ間違うと大けがをする作業ですが、お互いに声をかけながらリズムを作っていくとだんだん波長が合っていい仕事ができるようになります。

職場の人間関係とは、気の合う人同士が集まるところではありません。まったく違う境遇で生まれ育った人達が、目的に向かってなんとかして相手の波長に合わせようとするところに価値があるのです。

陰は陽なり 陽は陰なり

古代中国に成立した基本的な発想法に「陰陽」の考え方があります。

たとえば、陽の代表格が「太陽」で陰のそれが「月」。「昼」が陽で「夜」は陰。同じく男と女、動と静、表と裏、剛と柔、インフレとデフレといったもので、万物は相対して常に変化する二つの基本的要素をもっているという考え方です。『陰』と『陽』とは相容れない存在なのですが、それは敵対するのではなく,お互いに補いあって一つの世界を形成しています。陰陽の世界を解説した太極図を見ればわかるように、一方が出ると一方が退き、一方の動きが極点にまで達すると他の一方に位置をゆずるという、循環と交代を無限にくりかえしています。

ここで重要なことは陰陽の区別が絶対的なものではないということです。

太極図をよく見ると、白い勾玉の中に小さな黒い円があり、黒い勾玉の中には小さな白い円が描かれているのがわかります。この小さな円は、陰と陽の属性は絶対的なものではないとして、陰の中にも陽があり、陽の中にも陰が存在していることを表しているのです。

ろうそくの灯りは、周りが『陰』の夜ならば『陽』になりますが、『陽』である昼間であれば『陰』のものになります。男性の中にも女性的な要素があり、女性の中にも男性的な要素があります。このように陰と陽は相手によって変わる相対的なものなのです。

つまり『陰』は『陽』にもなるし、『陽』が『陰』でもあるという教えです。

少々難しくなってきましたが、陰陽論は現代の私達に何を言わんとしているのでしょうか。

このように考えたらどうでしょう。

企業における経営者と従業員、株主と経営者、上司と部下、営業部門と製造部門といった関係は、もともと対立する関係にあります。しかし、それは敵対関係ではなく、お互いに補い合うことによって存在しているのです。

相手がいなければ存在しない自分なのに、その本質を忘れて相手に不満を抱いていませんか?

従業員がいなかったら経営者の仕事はいりません。従業員がいるから経営者の仕事があるのです。

部下がいなければ上司はいりません。優秀な部下なら上司はいらないのです。

営業部門は製造や仕入れがなければ売るものがありません。製造部門は営業がなければ存続しません。つまり、対立する関係だと思っていた相手は、自分が存在する本質そのものだったのです。ですから、対立する相手のことを腹の底から信頼し、相手と一体になって仕事を進めてはいかがでしょう。

自分が嫌なことを相手にしないこと 自分がして欲しいことをする

陰陽の関係をもっとも表しているのが夫婦の関係です。男女の性に始まり、あらゆる面で対立する関係にあります。しかし、それは敵対関係ではなくてお互いが補い合うことによって存在しているのです。奥さんがいるから夫であるあなたがいるのです。奥さんがいなくなったら奥さんの仕事をすべてやらなければなりません。相手の中に自分がいて、自分の中に相手が居るのです。

経営者の場合、総じてご夫婦の関係が経営に反映されることが少なくありません。絶妙のコンビネーションならば経営状態も良好になりますし、ギクシャクしだすと職場の人間関係にも影響が出て、経営全体も悪化傾向になります。

あなたから見た奥さんの問題はそのままあなたの問題であり、奥さんから見たあなたの問題はそのまま奥さんの問題なのです。要するに鏡に映った自分を見るように、今の自分がそのまま相手に映し出されるのです。(女性の場合はそのまま逆にしてご理解ください)

ならば、自分がして欲しくないことは相手にしないようにしましょう。そして自分がして欲しいことを相手にしてあげましょう。簡単なようですがこれがなかなか難しい問題で、愛情を注ぐとはこんなことではないでしょうか。

もともと陰と陽でおたがい相容れない存在である夫婦間のコミュニケーションを見直すところに経営の原点があるのかもしれません。補いあって家庭という小社会を形成していくことです。

その次に会社全体というより、まず小単位の職場で一人対ひとりの信頼関係を円滑にする努力をしましょう。経営者ならば、まず幹部との充分なコミュニケーションを大切にしてください。

ドラッカー教授は自らを文化人類学者と名乗り、社会の潮流を数値ではなく人間を通して見続けた人でした。氏への追悼とともに人間としてのコミュニティを大切にした経営をしていきたいと思います。

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