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バイマンスリーワーズBimonthly Words

同じ高嶺の月を観るかな

1998年03月

ダイレクトマーケティング時代の幕開け

消費者と供給者との距離が大幅に縮まってきました。問屋を介しての取引きはもとより、商品によっては小売をも通さずにメーカーと消費者が直接取引をしたり、サービス業が仲介業者を通さずに直接に連絡するダイレクトマーケティング(市場直結のマーケティング)が本格化しているのです。

その要因としてまずあげられるのは、バブル崩壊後のデフレ経済下で、生産者が極力中間業者を排したり、マージン率を下げることによって価格下落に対応したことです。長年、問屋無用論が叫ばれていましたが“特色を持たない中間業者”はここへきて排除されることになったのです。第2の要因は日本の物流システムが大幅に整備されたことです。佐川急便やヤマト運輸に代表される民間の物流・運送業者は「より早く、より正確に、より安価に」を実現しました。第3の要因は何といってもインターネットの急成長です。現在、約一億人といわれる世界のインターネット人口のうち、日本は797万人でアメリカに次いで世界第2位となりました。頻繁に利用する人はそのうちの2~3割だろうと思われますが、自動車や家電製品を中心に、約1兆円(9970億円、96年のデーター「矢野経済研究所」調べ)がインターネット上で取引きされています。気をつけなければ日本の消費者は中間業者を飛ばして購入するのはもちろん、海外企業の魅力あるホームページの商品に誘引されて、日本のメーカーまでもが無視される方向になるかも知れません。ホームページによるマーケティングに遅れをとってしまう企業は陳腐化した市場に取り残されていくかも知れません。

急成長する新業態企業

ダイレクトマーケティングとは、市場への直接販売という意味だけではありません。

某マンションメーカーのセールスマンだった4人が独立し、バブルで売れ残ったマンションの委託販売事業に特化し、90年5月の創業から96年6月までのわずか6年で店頭公開を実現したアーバンコーポレイションという会社が広島にあります。これまでは多大の人件費と広告宣伝費をかけて自社物件を“建てて売る”のが通常だったマンション業界で“販売すること”を特化したアーバンコーポレイションに初めて販売依頼があったのは、売れ残った37戸のワンルームマンションだったそうです。これをわずか10日間で売り切ったところ噂が噂を呼び、さまざまマンションのメーカーやオーナーから販売依頼が舞い込むことになり、さまざまな物件から自分の欲しいものを探せるという細分化された顧客ニーズに対応できるサービスが実現できた結果だといえるでしょう。

米国のオート・バイ・テル社は全米で月間平均2万台をわずか65人の社員で売ってのける超効率経営を実現している自動車販売会社です。もちろんインターネットを武器としており、さまざまなメーカーの新車・中古車、自動車部品、保険など幅広く商品を取り揃えており、販売コストを徹底的に抑えているために価格も非常に安く設定されているとのことです。

今後は規制緩和も手伝い、生命保険、損害保険の業界でもさまざまな会社の商品を取り揃え、より安く提供できる機能を持った保険販売店が成長するでしょう。旅行代理店も自社商品だけでなく、細分化されたニーズに応えるような幅広い機能を持った旅行販売会社が顧客から支持されるでしょう。

市場に直結した受注生産も確実に成長します。たとえば、靴のメーカーはデザイン、色、サイズといった条件を満たすために大量の見込み生産をし、常時不良在庫を抱えるような業界でしたが、これからはオーダーメイドの受注生産が市場から支持されていくでしょう。

このように細分化された顧客のニーズ、できれば一人ひとりのニーズに対応できるような機能を持っていることが市場に支持される不可欠な要素なりました。ダイレクトマーケティング時代に本格突入した今、企業は市場の変化に合わせた大変革をしなければならないのです。

改革が進まない理由

ところが新しい業態で成功しているのは、トップが優れた先見性と強烈なリーダーシップで組織を引っ張っているところぐらいで、現実問題としてほとんどの企業が社内の問題につまずいて改革が進んでいません。その具体的な内容としては、次のような4つのタイプがあります。

  • 後継経営者や幹部社員が改革を進めようとしても、トップが首を縦に振らないために進まない

 このケースは後継経営者や幹部が頼りないことが原因しているケースもありますが、多くはトップの頭の固さからこうなるようです。

  • トップが改革しようとするが、幹部社員との意識や能力のギャップが大きく行動が伴なわない

 これは、トップが一人で走り過ぎ、幹部の意識が社長に頼り切っているために起こる現象です。

  • 改革が必要なのにトップも幹部社員もそれに気がついていない

 このタイプは、環境の変化度合いによって一挙に会社が衰退する可能性があります。

  • トップも幹部社員も改革の必要性を感じ、相当の能力も保有しているのに誰も行動を起こさない

 最も質の悪いタイプです。自己保身の強い人間の集団になっています。

④のわかっているのに誰も行動を起こさない企業はトップが替わるか、一度人間の総入替えをしないと立ち直れないでしょう。③のトップも幹部も改革の必要性を感じない企業は、トップの学習環境をガラッと変えることから始めなくてはなりません。それからの問題です。

惜しいのは①や②のタイプに見られるような、経営者と幹部・後継経営者の間での意見の食い違いによってことが進まないケースです。後継経営者も何とかしてこの危機を乗り越え、いい会社にしたいという思いから改革を進めようとしているでしょうし、幹部社員も同じような心持ちがあるでしょう

一方、トップである社長も会社を守り、維持発展させていくために懸命の努力を続けているのです。

お互いが抱いている“志”は同じようなところにあるのに、感情のズレやちょっとした方針の違いから意思決定にズレが生じ、あと少しで改革が進まないことが惜しいのです。

顧客志向から顧客満足へ

今、トップや幹部に必要な“共通の志”とはいったい何でしょうか?

ダイレクトマーケティング時代の今だからこそ企業が目指す原点に立ち帰って考えてみましょう。その原点となる志とは、“顧客に満足してもらう会社にすること”ではないでしょうか。顧客が必要とする会社ならば、よほど無茶な経営をしない限り潰れることはありません。顧客に心から満足してもらえたら結果として企業は安泰なのです。ここでいう顧客というのは販売先のことではありません。その企業が提供する商品やサービスを最終的に利用する顧客のことです。

この“志”のところで共感できないような人を経営陣に据える訳にはいきません。全く正反対の“自分のために都合のいい会社にしたい”といった考えをもった人、言い換えれば“自己中心的な思考や行動をする人”に顧客に満足してもらいたいという感情は起こりません。自己中心的な人の志はいつも自分の欲望の中にある訳ですから、他者との接点が持てないのです。もちろんトップ自身が自己中心的ならば話になりません。それはいずれ周りからの信頼を失い社長の座を降ろされる運命にあります。三越の岡田社長解任事件、最近では松竹の奥山社長解任などがそれにあたるでしょう。

今、ダイレクトマーケティング時代に対応するための“取捨選択”が必要になっています。陳腐化した販路を思い切って断ち切り、新しい販路に転換することも必要でしょう。一部の経営機能をアウトソーシング(外部委託)したり、今までやったことのないホームページによるマーケティング展開が必要かもしれません。トップと幹部・後継経営者の志が共通しているのなら改革路線の選択についての議論は大いに戦わせてください。

これが改革への道のりなのです。

 

「それぞれに辿る道のり違えども、同じ高嶺の月を観るかな」というがあります。

政治家、事業家、芸術家、スポーツ選手などいろんな職業の方が世の中におられますが、それぞれの人が辿る道は違うけれども最終的に目指すことは同じであることを説いています。はじめは自分の欲望を満たすことを原動力に登ってきても、ある段階でその欲望が満たされて昇華し、自然体の欲望を抱くようになります。これが“高嶺の月”です。経済的な側面から社会貢献する人がいたり、美しいものや鍛練されたものや姿を披露し、人々に勇気や希望を与えて“世の中の役に立ちたい”そして“人々を幸せにするお手伝いがしたい”といった一心になってくるのです。

社内においてもそれぞれの人の意見や立場や多少違っても、さまざま人がいろんな道から登る方がいいのです。“志”が変わらないのなら、今までの道を大切にしながら、思い切って新しい改革の道を辿ってみてはいかがでしょうか。

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