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バイマンスリーワーズBimonthly Words

2:6:2に分けて見る

1995年07月

暑中お見舞い申し上げます。

昨年は猛暑で夏バテの人が多かったようですが、この夏は身体的な夏バテはもちろんですが、経済的な夏バテ現象だけは是が非でも避けて頂きたいと願っております。

 

さて、私は前号で日本経済は撹拌機の中に放り込まれたようなものであると申し上げました。規制緩和が進み、業界の垣根がなくなり、流通チャネルの組み替えがあちこちで行われています。これまでの安定経済とは打って変わり、経済を支えてきたあらゆる機能やユニットが混乱状態にあることを表現したつもりです。そして、撹袢機の中で混乱状態を過ぎて、回転する撹袢機の中にあるものが色分けされそうになってきました。

集団をじっと見つめた時、はじめの混乱期を過ぎるとある状態に落ち着いてきます。そのある状態とは、2:8の法則と呼ばれるものです。

2:8の法則はいろんな場面で使われます。例えば、たくさんある顧客を一つの集団として見た時、全体の中の2割の顧客が総売上げの8割を占めるといわれます。ときに3:7の場合もありますがおおむねこの傾向になります。工場で発生するミスを分析すると、様々な種類のミスがある中で2割の種類のミスが全体の8割を占めてしまいます。

日本経済全体がはっきり色分けされていくというのはこのようなことをいいます。

混迷を続ける国内経済の中でこれからも安定的に勝ち残っていけると言い切れるしっかりした会社は2割しかないでしょう。その2割の会社が雇用の8割を確保するという構図が出来上がるかもしれません。

海外に生き残りの場所を求めて工場を移転するメーカーも2割くらいにはなるでしょう。ところが、その2割のメーカーが全生産高の8割を日本から持って出るというあってはならないことも想像してしまいます。日本経済の空洞化とはこのような状態をいうのでしょうか。

ところがこのように悲観的に、また日和見的に世の中を見ていてもそこには何も生まれません。そこでこれからは2:8の法則よりも、2:6:2で考えてみてはどうでしょうか。

2:6:2とは次のように考えます。

あっさりと海外に生産を移転する企業が2割、逆に1ドル=80円台という超円高時代でもあくまで国内生産にこだわる企業も2割はあるでしょう。自分がどちらの立場をとるにせよ、対局の政策を選ぶ企業は事情があっての判断であり仕方のないことなのです。それがたとえ得意先であっても、意見をしたり、嘆いていても始まりません。

問題は残る真ん中の6割です。この6割の層は迷っています。世の中の動きを観察しています。新たに起こる現象や、政策によってどちらに振れてもおかしくないのがこの層の特徴なのです。

6割の層とは選挙活動でいう浮動票にあたります。2割が我が陣営、対局の2割は敵陣営です。この敵陣営についている有権者にいくらアプローチしてもこちらを向いてくれません。その力は残る6割の浮動票の獲得に注力し、どれだけ我が陣営に取り込めるかが勝敗を決します。

今の日本経済はこのように2:6:2に色分けされていると考えたほうがいいでしょう。

社内を2:6:2で見てみる

「うちの会社では2割の社員で8割の仕事をこなしているよ」と言う人がいます。社員の仕事ぶりを見ていると、みんな一所懸命に動いているようでも実質の成果をにらんでみるとおおむねそんな割合になっていることもよくあるでしょう。ただ、このような2:8の観点で捉えていると次の対策が見えてこないのです。

2:6:2で捉えるとあなたのやるべきことが見えてきます。

わかりやすいように、集団をリーダーであるあなたに近いほうから、「頭の2割」、「中の6割」、「しっぽの2割」というように名前をつけて分けておきましょう。

まず、頭の2割の社員は既に動機づけされている自立心の強い人々です。彼らは放っておいてもやってくれます。

問題は、中の6割としっぽの2割です。あなたはこれまで突っ込みの8割で彼らを見ていました。そして、残る8割の社員の中でも全く動機づけされていない「しっぽの2割」の社員があまりにも目立つためにあなたの関心はそちらに向いていたのではないでしょうか。そうだとしたら、可能性のある「中の6割」の社員まで同じ層だと錯覚して悪いように見てしまいます。

これが問題なのです。突っ込みで見てしまうと可能性のある社員の芽を知らず知らずのうちに摘んでしまうのです。とにかく、残る8割を6割と2割に分けてみましょう。

まず、悪いように見えているしっぽの2割。この層に対しては 「アイツがもうすこしよくなってくれたら・・・」 「あの男がまわりに悪影響を与えているガンだ」 といったことを感じてしまいます。リーダーであるあなたから見れば「はみ出し野郎」に映るでしょう。

しかし、よく考えてみましょう。この「はみ出し野郎」はどんな組織であっても存在するのです。学校であれ軍隊であれ集団にはこのはみ出し野郎は付き物なのです。彼らは悪者ではありません。組織のリーダーであるあなたと価値観が違うためにはみ出し野郎に映るのです。彼らは彼らなりにやっていけます。見方を変えると組織にとっては必要な人にもなります。あなたの人間としての器を拡げてくれる存在であることは間違いないでしょう。あなたがやるべきことをやったら、あとは彼らの出す結果を待つことです。これこそ「人事を尽くして天命を待つ」式です。あなただけが持っている、組織にとって最も重要な「情熱」をこの層に吸い取られてしまってはなりません。

あなたの情熱は「中の6割」の人達に注ぎましょう。

この「中の6割」の特徴は、放っておけば確実にあなたが願っている方向とは逆の方向になびいてしまうことです。つまり、頭の2割は「育つ」人ですが、中の6割は「育てる」人なのです。この層の社員に対する動機づけに成功し、好ましい方向に導いていけば大きな経営成果が得られます。両極にある、頭としっぽの2割が各々白と黒だとすれば、真ん中の6割はグレーです。そのグレーは白に近いものもあれば限りなく黒に近いものもあります。あなたが白だとして黒に近いグレーを白に近く染め上げることが出来ればその成果は格段のものとなるでしょう。

それは、オセロゲームとおなじ理屈です。黒い石を裏返すことによって白と黒の双方が増減しその勢力は二倍の勢いで拡大し、一方は縮小していくのです。

社内が2:6:2になっていないとき

あなたの属する集団を2:6:2で捉えようとしても、まったくそのようになっていないこともあるでしょう。

それは集団が、成長期にあるためなのか、変革期にあるからか、衰退に向かっている兆候なのかを見極めよ、という示唆なのかもしれません。

頭の2割と思われる層が、2割どころか大勢を占めると感じるようであれば、成長期にあると判定できるでしょう。あなたのリーダーシップが充分に機能している証しでもあります。しかし、この状態がいつまでも続かないことを自分に言い聞かせておくことが大切です。

中の6割の層が大勢を占めている場合もあるでしょう。飛び抜けた、いい人材がいるわけでもなく、逆にこれといって悪いのもいないといった感じです。これは、集団全体が成長性をなくしている表れかもしれません。経営トップがスーパーマンで、その器の中でこぢんまりとまとまっているトップ依存型組織、逆に、無能なトップに意見も出来ずにじっとしている開き直り型組織、そして組織の安定度に依存する官公庁組織などに見られる傾向です。このような場合は思い切った制度改革による変革が必要です。

頭の2割に相当する人々が見当たらない場合もあるでしょう。これは要注意です。あなたはもう既に「裸の王様」になっているのかも知れません。ご自身が革新を目指さないと衰退の一途になってしまいます。

組織や集団はバランスがとれている時に最大の効果をあげます。トップはそのバランスをとるために日夜苦労しているようなものです。新たな成長に向けてわざとバランスを崩すこともあるでしょう。何のために経営をしているのか自分に疑わしくなることもあります。でも、この疑問に打ち勝ったリーダーのみが成功を

勝ち取っていることも事実なのです。

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