Now Loading

株式会社新経営サービス

Books
出版物

バイマンスリーワーズBimonthly Words

冷暖自知

2016年11月

~ 人工知能(AI)が人類を支配する? ~
SF小説のような話が現実味を帯びてきました。
AIが人類の能力を超え、人間生活が後戻りできなくなる。
“技術的特異点”と呼ばれる大転換は2045年にやってくるという。

経済活動だけでなく、政治、教育、娯楽、医療など、
人間が生きていくあらゆる場面での活用が期待されるAI。
人類の発明は突き詰めると「便利」と「勝利」の歴史でした。
つまり、発明は便利さの裏側で、戦いの道具に使われてきたのです。

まず、農業の生産性を飛躍的に高めた農薬の発明は、
人間に有害な小動物を薬で退治する発想です。
それは、抗生物質や抗がん剤に応用され、
医療の分野に革命をもたらしました。

農薬や抗生物質などで敵を倒す発想は、
究極の破壊力を持つ「核開発」に向けられ、
史上最強の武器として世界中の脅威となりました。

そして人類は自分たちの頭脳の代わりをするコンピューターを発明。
人類を超える演算力、記憶力はますます高度な能力となります。
今ではネットワークに繋がることで車の自動運転が可能になり、
世界一の囲碁名人がついにAIに敗れたニュースはショックでした。

人工知能は科学技術の進歩が行き着くところまで到達した感があります。
私達はこの先、何をしようというのか、どこへ行こうというのか。
便利な世の中になっても、心の中はなぜか満たされません。 相手を倒し、勝利を得ても、不安な心は消えないのです。

人事や財務も 人工知能に取って代わる?

中国の書『荘子』が、現代の機械文明に警鐘を鳴らしています。
~ 機械あれば必ず機事あり 機事あれば必ず機心あり ~
「機械を使うと必ず機械に依存する仕事が増える。

すると機械がなくてはならなくなって、必ず機械に頼る心が生じる。
それが健康的な人生の営みを損ね、道から外れてしまう」
これが二千年以上も前の言葉とは思えません。

便利さは新たな問題を生み、勝利はいずれ反発を招きます。
農薬は土壌を汚染し、深刻な健康被害をもたらしました。
抗生物質や抗がん剤には、恐ろしい副作用が待っている。
核や原子力発電による弊害はいまさら言うまでもありません。

そして今、機械化によって多くの職種がなくなるという。
自動車の運転や荷造り、郵便配達、金属や食品の加工など、
作業をする人だけでなく、知的労働者の雇用にも大きな影響が出る。
経理・貿易・医療の事務といったホワイトカラーの仕事も機械に代わる。

最近、浸透しつつある『フィンテック』という財務のシステムは、
経理の取引きが自動記帳になり、経営成績が金融機関に報告される仕組みです。
人材を採用、評価、配属する『HRテック』という人事システムも始まっています。
社員の働きぶりをデータにし、人工知能で分析して評価や最適な職場をはじき出すという。

苦労して事業を軌道に乗せた創業経営者は、鋭い金銭感覚をもっています。
一方、ITには強いが「財務は苦手」という若手経営者が少なくない。
その違いは、資金不足に苦しみ、自ら資金繰りの打開策を練って、
何度も倒産の危機を乗り越えてきた実体験の差があります。

機械任せでは「財務は苦手」から永遠に脱出できません。
苦手なことから目を背けていると、能力は低下する一方です。
財務が苦手なら「資金繰り計画」を自分で作って資金の流れを掴み、
どうすれば利益が出せるか、を必死で考えて力をつけるしか策はない。

機械任せが過ぎると「人を見る目」も退化します。
能力や成果の管理を機械に任せるのはいいでしょう。
しかし、「人格」の判定まで機械に頼ってはなりません。
どんな人格をもった人物なのか、あなた自身が感じるのです。

経営の悟りとは自分で体得するもの

~ 冷暖自知 ~
水の冷暖は自分で飲んで初めて知ることができる。
真の悟りは修行を積み重ね、自分で会得することにある。
「禅」の教えで、師匠から弟子へ言葉で教え諭すのではなく、
己が持つ五感のすべてを使い自分自身で体得しろ、と諭しています。

昔の人は、我が子を沸騰するやかんに触れさせ、火の熱さ、怖さを教えた。
親は百の言葉で説明するより、一瞬で火の怖さを感じさせたのです。
禅の世界は、物事は教えるのではなく”自ら悟る”ことが主眼で、
修行者が頼んでも、あえて冷暖自知の迷路に追い込むという。

経営者の仕事は、社員に仕事を任せ、育てることにあります。
ところが、何でもかんでも機械や部下に任せていると、
いつまでたっても”経営の悟り”は得られません。
では、経営の悟りとは何なのか?

それは”私は何のために経営をするのか”の解ではないか。
ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンは、
「経営者の使命は株主利益の最大化にある」として、
株主や経営者の思想に大きな影響を与えました。

たしかに創業時における株主の貢献は大きい。
しかし、中小企業にはもっと大切なことがあるはずで、
“何のために経営をするのか”の答えは企業によって違います。
それは他者の考えではなく、体験によって”自ら悟る”ことにあります。

AIは経営者も不在にするといわれています。
しかし、分析などのマネジメント能力に長けていても、
「人を見る目」「人格を見抜く力」は人間だけが持っている。
何度も人の問題で失敗しても、あきらめないで鍛えていきたい。

掃除を機械や他人に任せてはならない

経営のコツはバランスを取ることにあります。
相対する経営要素のバランスが崩れた時に破綻する。
機械に頼りすぎると、人間が退化し、存在意義がなくなる。
人間に頼りすぎると、効率が落ちて、コスト負担が大きくなる。

また、人事を扱う力と、財務の扱う力のバランスも大切です。
人事と財務の仕事を通じて、現場の”冷暖”を感じつつ、
攻めは「人事」で、守りは「財務」で乗り越える。
その体感から”経営の悟り”が得られるのでしょう。

京都にある寺の門前書きが秋の深まりを伝えます。
~ 掃けば散り 払えばまたも 散り積もる
人の心も 庭のおち葉も ~
今日この落ち葉を掃いても、また明日落ちてくる…。

一見、無意味で非効率にみえる落ち葉の掃除。
人は掃除によって心を清め、心を鍛えてきました。
自分にとって大切な仕事”掃除”を他人にさせるのはよくない。
まして、お掃除ロボットにさせるなんて日本の将来がそら恐ろしい。

第45代アメリカ大統領がまもなく誕生します。
「ディベート」とよばれる論戦が繰り広げられたが、
実際は相手の弱点を攻めたて、勝ち負けを競うものでした。
大国のリーダー選びがこれでいいのか、後味の良くないものが残っています。

オバマ大統領は、核の抑制を訴えノーベル平和賞を受賞し、
広島で平和のポーズはとったが、結局何もさせてもらえなかった。
次期大統領は、オバマ氏以上に好戦的な人物であることは間違いない。
膨らむ一方の日本の防衛予算の正体が、米国製の兵器購入であるのは悲しい。

文字サイズ