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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

おたがいさま

2014年01月

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
本年もバイマンスリーワーズ、そして新経営サービスをよろしくお願いします。

目まぐるしく変化しながら進化を続ける現代社会。
毎年、新しい商品やサービスが世の中に出回りますが、
最終的に残るのはほんの一部で、そのほとんどは淘汰されます。
ところが、いったん顧客の支持を得た商品には粘り強いものがある。

「携帯電話はすべてスマホに代わる」と噂されていました。
ところが、ガラケーと呼ばれる旧来型の新製品が発売されています。
自動車はガソリン車からハイブリッド車への移行が先行していますが、
電気自動車、燃料電池車などとも共存しながら、進化を続けています。

多摩大学大学院の田坂広志教授は「進化」の本質は「多様性」にあるという。
進化とは、単に古いものが消え、新しいものに置き換わることではなく、
昔の「古いもの」と「新しいもの」とが共存・共生し棲み分けること。

ダーウィンの進化論では、魚類が両生類、爬虫類、哺乳類と進化し、
哺乳類から霊長類の猿が生まれて人類が生まれたとされている。
しかし、その進化のプロセスにいた魚類、両生類、爬虫類、
そして哺乳類、猿、人類のすべてが今も存在しています。

もちろん一部の種類が淘汰されることはありますが、
「生物の進化」は、ますます多様化に向かっています。
ところが様々な生物が多様化の中で共存しているにも関わらず、
人間社会では、様々な人が共存できず、力が発揮できないことも多い。

多様化を否定することは「いじめ」につながる

感染免疫学者 藤田紘一郎氏は「日本人の清潔が危ない」という。
トイレや部屋の消臭剤、殺虫剤などが盛んにPRされた結果、
自分の匂いを消そうとする消臭症、大浴場に入りたがらない人、
しょっちゅう歯を磨かないと気がすまない人などを生んでしまった。

藤田氏が寄生虫と人間の関係に興味を持ったのは、学生時代のことで、
インドネシアのカリマンタン島で感染状況の調査をした時でした。
花粉症やアトピーの症状は見られず、肌もきれいでしたが、
くわしく調べるとほとんどの子供に回虫がいたのです。

かつては日本人の60%が回虫などの寄生虫を持っていました。
米軍の要請で駆除を進めた結果、寄生虫を持つ人は大幅に減ったが、
この時期と花粉症などが広がり始めた頃とが一致するという。
「きれいすぎる社会がアレルギー体質をつくった」と藤田氏は警鐘を鳴らす。

「いい、悪い」をはっきりさせ、悪いとなったら排除したがる清潔志向。
これが多様性を否定し、異なるものを排除する「いじめ」につながる。
いろいろな人間がいるから成り立っている社会なのに…。
異なるものを排除したがる企業や職場は、真の環境適応能力を失っていく。

少子化が進む社会では、人材の多様化は避けられないテーマです。
男性と女性、若者と中高年、新卒組と中途入社組が混在している企業。
正規と非正規、日本籍と外国籍、そして優秀な人とそうでない人が働く職場。
しかし、人材の多様化に向けて会社がどれほど働きやすい環境や制度を用意しても、
社員一人ひとりの心の中に、多様な存在を認め、受け容れる度量がないと成り立ちません。

経営者の心の中にも「虫」がいる

昨年、大手ホテルなどのメニュー偽装問題が表面化しました。
デフレ環境の下、経営トップや現場責任者は不安だったのでしょう、
背景にはコスト削減と、付加価値アップを迫られる競争環境があった。
記者会見で、右往左往した社長が辞任に追い込まれる問題に発展しました。

不祥事が発覚するのは、内部告発がほとんどです。
不当解雇や左遷人事の復讐のために外部に密告するケースや、
現場責任者の不正に対して、部下が経営トップに伝える場合もある。
告発が上層部で潰され、業を煮やした社員がマスコミに通告するケースは根が深い。

~ 獅子身中の虫 ~
多様な社会を実現するには”きれいごと”では解決しません。
獅子の体内に寄生しながら、獅子を死に至らせるほどの虫もいるわけで、
さまざまな災いの根っこは、外部ではなく、実は内部にあることをたとえている。

コソコソと内部告発をする社員のことを「何て卑怯なヤツだ」と一瞬、経営者は思う。
しかし、冷静に考えてみると”身から出た錆”いや”身から出た虫”であった。
正義感か、復讐なのか、告発の動機は何であれ、元々身内の人間であり、
一緒に問題に取り組み、お互いに悩んだ、同類なのです。

人は誰でも自分の心の中に「虫」をもっています。
その虫は他人が持っている同類の虫に対してすぐに反応する。
部下の問題点を指摘すると、それはたいてい自分が抱える問題であり、
「いやなヤツ」だと感じたら、相手も「いやなヤツ!」だ、と思っている。
そう、身中の虫はお互いの問題を映し出す、鏡のような存在だったのです。

異なる人が 持ちつ持たれつ おたがいさま

会社とは多様な人を詰め込む”ぬか床”のようなもの。
キュウリも、なすびも、大根も、みんな一緒に、ぬかの中。
手入れをしないと腐るけれども、毎日心を込めてかき混ぜると、
乳酸菌が活発に働いて発酵し、何十年、何百年と活躍するぬか床となる。

「腐敗」も「発酵」も、その意味は微生物によって有機物が分解されることですが、
人間にとって有益なものを「発酵」、有害なものを「腐敗」というらしい。
乳酸菌などの発酵菌は、腸内環境を快適に保つ効果があるとされ、
回虫に頼らなくても、人間にとって有益な存在になっています。

会社の組織も、従来と同じことを続けるだけでは「腐敗」します。
工夫して新しいことを続けるならば「発酵」し、組織は活性化するのです。

経営者なら誰でも一度は思うことがあります。
~ 気の合う、仕事のできる人ばかりで経営したい ~
ところがこの世は、持ちつ持たれつ、”おたがいさま”。
気の合う人と合わない人、仕事の出来る人とできない人…。
そんな人たちが、ナントカカントカ、歩調を合わせ、
“おたがいさま”で知恵を絞るところに意味があるのです。

東日本大震災をはじめとし、災害の傷跡はまだまだ深い。
いつの世も自然災害と闘いながら、復興を果たしてきた日本。
復興を精神面で支えてきたのは”おたがいさま”の心でした。
わが国の喫緊の課題は、原発に絡んだ問題の解決であり、
災害復興であることをなおざりにしてはいけません。

政治のおかげでデフレから脱却しそうな日本経済。
政治と経済も、相互依存の関係で成り立っていますが、
あなたの会社を成長路線に乗せるのは、あなた自身の経営力。
自分の道を間違えず、自分の足で大地をとらえ、自分の力で歩いていこう。

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