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バイマンスリーワーズBimonthly Words

Easy Come, Easy Go !

2010年05月

カーナビ、ハイテク家電、ケータイにインターネット…。
近年になって私たちは”すごく便利なもの”を手に入れました。
情報交換の技術は飛躍的に進歩し、本当に便利な社会が実現しました。
ところが一方で、何でもできる世の中は”空恐ろしい”ものを感じざるを得ません。

カーナビに頼るドライバーの方向感覚は衰えていくでしょう。
インターネットやケータイがなければ、生きていけないと言う若者がいる。
ハイテク機器は、人と自然との調和や対人感受性を鈍らせているのではないか…。
私たちは便利を手に入れた一方で”大切な何か”を失っているように思えてなりません。

“Easy Come, Easy Go!”
若者の心をつかんだ音楽ユニット B’z のヒット曲です。
ことわざとして和訳すれば”悪銭身につかず”となりますが、
“手に入りやすいものは、失いやすい”という意味にも使われます。

優秀な人材は、喉から手が出るほど欲しい。
信頼して任せられる店長がいたら、いくらでも出店できる。
そこで便利な人材紹介機関に依頼して完成度の高い人を引っ張りますが、
得てしてお互いに思い違いがあって、別れてしまうケースが少なくありません。

会社を辞めた人達が集まって、事業を始めるケースもあります。
リーダーとなる人に確たる「志」があれば”同志”の集団となるが、
共通の不満を持って集まっただけの”同士”なら、簡単に離れてしまいます。

困難から逃げると、自信も逃げる

京都五条で320年にわたって『麸屋』を営む「半兵衛麸」。
家訓は「先義後利(義を先にして利は後とする)」で、石田梅岩の訓えが基本です。
最大のピンチは戦中・戦後の10年間、原料の小麦粉が食料統制で麸が作れなかったことでした。
11代目当主・玉置半兵衛氏(現・玉置辰次会長)が苦しかった当時のことを語ります。

「よそみたいに闇(ヤミ)で売ればええやんか」
当時、中学生だった氏が父親にこう言うと、
「うちは先祖代々、麸のおかげで家がずっと続いてきたのや。
そのありがたい麸を、闇で作って闇で売るようなことはできない」
と、頑として聞き入れてもらえませんでした。

戦後になっても、堂々と商売ができる日まで一切商いをせず、
生計は家財道具を売って立てる”売り食い”で、最後は家も手放し、借家住まいに。
食料統制が終わり、無一文ながらやっとの思いで再出発しますが、父親は3年後に亡くなります。

父親亡き後、若き半兵衛氏が昔の得意先へ麸を売りに行くと、
涙の出るようなお言葉をいただきました。
「よう辛抱したなあ。君のお父さんとお祖父さんには大変世話になったんや。
うちでできることやったら、なんでも言うといで」
半兵衛氏はその時に、目には見えない”大切な財産”を受け継いでいたことに気づいたのです。

本当の自分を鍛えることで、本当の自信が湧いてくる

それにしても、「義を重んじ闇に手を出さず」とは、頭では分かりますが、
売上ゼロでも辛抱するという判断を、10年も続けられるでしょうか。
親は我慢しても、子や孫に不憫な思いはさせたくないのが人情ではないか。
私なら、資金が底をついたその時に”義”を優先できるかどうか、自信はありません。
いくら家訓とはいえ、究極の場面でも”義”を重んじた判断ができたのは、なぜでしょうか。

自分には厳しいが、周囲の人にはやさしい判断。
目先の利益でなく、長期的な観点からの思い切った決断。
このような洗練された意思決定は”自分に対する自信”がなければできません。

行く道が、困難な道と安易な道に分かれていたら、誰でも安易な方を選ぶでしょう。
ところが、いつも楽な道ばかりを歩いていると、
「いつかは苦しい時がくる…」という恐怖心が付きまといます。
それは、”困難から逃げる自分” を”本当の自分” が見つめているからです。
こう考えると、人が自信を持てなくなる理由がわかってきます。
それは”本当の自分”が”もう一人の自分”を信じられないのです。

目の前の”利”よりも”義”を重んじることができたのは、
どんな局面でも、卑怯なことは一切しない、後ろめたい生き方はしない、
そんな生き方をしている”本当の自分に対する信頼”があったからではないでしょうか。

どれほどの財産があっても、自分に対する自信は深まりません。
否、財産があると却って守りに入り、肝っ玉の小さな人間になりやすい。
鍛えられていない自信は、ただの過信であり、驕りであり、傲慢にすぎません。

「若い頃の苦労は、買ってでもしなさい!」
年配の方からうるさく言われましたが、理に適った話であり、満更でもない。
あえて苦労をし、自分を鍛えることで、本当の自信が培われていくのです。

今、"本当に大切なもの"が熟成されている

B’z の “Easy Come, Easy Go!”は、失恋への応援歌。
歌詞に「生涯、最愛のものを手に入れるまで晴天ばかりは続かない…」とあります。
それは「”本当に大切なもの”を手に入れるのは簡単ではないよ」と解釈してもいいでしょう。

経営者も人間ですから”仕事の失敗”という失恋をします。
明らかな判断ミスもあり、うっかり発言で社員のやる気を削ぐこともある。
そして大幅に業績を悪化させてしまうという失敗は、経営人生で何度も経験します。

でも、これらの失敗や停滞は”本当に大切なもの”を手に入れるための、
どうしても通らねばならない”関所”なのかもしれません。

経営者にとって”本当に大切なもの”とは、 地位でも、財産でも、名誉でもありません。
それは、いかなる条件や環境にあっても、ゆるぐことのない、
“経営に対する自信”かも知れない。
また、ある経営者にとっては、いかに厳しい状況になっても切れることのない、
“お客様との信頼関係”や”社員との絆”かもしれません。

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