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バイマンスリーワーズBimonthly Words

得意淡然 失意泰然

2009年03月

ピグマリオン効果。
映画「マイ・フェア・レディ」の原作となったB・ショーの戯曲「ピグマリオン」からとったもので、
強く信じることで、それが現実のことになっていくという現象や考え方のことです。
キプロスの王であったピグマリオンが象牙で作った女像に恋し、
その像に命が宿って妻となったというギリシャ神話が元々の話。

映画では、オードリー・ヘプバーン演じる貧しい花売り娘が、
一人の紳士のほめ言葉と期待感にのせられ、美しい貴婦人に変貌するという筋書き。
教育心理学では、教師が抱く期待が生徒の成績を向上させることが実証されていますが、
マラソンの小出監督が、高橋尚子を褒めて信じて成長させた例などはその典型でしょう。

大不況に突入した今、リストラを実行する前に経営者がやることは何か?
それは、監督が選手の力を引き出すように、 教師が生徒の力を引き出すように、
社員一人ひとりの力が最大限に発揮できる環境を作ることではないでしょうか。

06年のワールド・ベースボール・クラシックで奇跡的な優勝を勝ち取った日本チーム。
大型選手がいない日本チームは、チームワークで勝負するしかありません。
準決勝進出が絶望的となった日、あのイチローが若い選手たちを食事に誘い、
バラバラになりかけていた選手たちの心を一つにまとめていったという。

社員の力を最大限に発揮するには、チームワーク作りが最も近道なのです。
そのため組織のトップは、求心力をもった優秀な人物であって欲しいものです。
ところが求心力はおろか、皆の意識をバラバラにしている経営者が少なくありません。

トップの優秀さは周りとの「関係性」で決まる

バブル経済華やかなりし頃、社員を”人財”と呼んでいた経営者が、
不況になったとたんに、不要だ、と手のひらを返すような行為がありました。
彼らにとって”人財”とは何だったのか?

それは、好調な時には”自分に財産をもたらしてくれる人”を”人財”と称し、
業績が低迷すると、足を引っ張る”邪魔者”と化してしまったのではないか?
人間は厳しい状況になると”自分も知らなかった自分”が表われることがある。
経営者の本性を知った社員は、トップや組織に対する信頼感を失い、
それは失望感にまで変わります。
経営トップの言動しだいでチームワークは一瞬にして崩れるのです。

やはり、信頼できる優れた人物がトップになって欲しい。
これは当然のことながら、組織を構成するみんなが求めていることです。
ところが、どれほど優秀な経営者でも、元々実力を備えて経営者になった人はいません。
では、優秀なトップを誕生させるカギを握っているのは誰なのか?

釈迦も孔子もキリストも一人の人間でした。
大天才であり、神のような人格をもった人でしたが、
そこは人間ですから、長所と同じだけの短所もあったでしょう。
その短所には着目せず、偉大なるリーダーとして認めたのは周囲の人たちだったのです。

優秀なトップを誕生させるには、本人の問題もさることながら、
周りの人たちとの「関係性」が重要なカギとなります。
「社長がもう少し聞く耳をもっておれば…」「もう少し権限を与えてくれたら…」
などと、周りが不満を訴えている状態では、いい関係は生まれません。

トップ自身が失意のどん底にいる

多少、風格やリーダーシップに乏しくても、
「何とかしたい…」と真面目に経営に取り組む人物ならば、
その人を中心とする組織を作れば、経営者として成長できる環境になります。
ところが、実力もついてない人間なのに…と考えると、調子に乗らないかと心配かもしれません。

経営トップと幹部社員との関係は「陰陽の法則」に従うところがあります。
野球でいえばボールを投げるピッチャーが「陽」で、受けるキャッチャーが「陰」。
反対に、心理面ではサインを出すキャッチャーが「陽」で、それに従うピッチャーが「陰」となる。

会社では、方針を打ち出す経営トップが「陽」であり、
その方針に従って行動する幹部社員が「陰」になる。
しかし、心理面でトップに影響を与えるのは幹部であり、
幹部の発言や動きによって、経営トップの発揮する力が変わるのです。

~ 得意淡然 失意泰然 ~
物事がうまくいっている時には、淡々とふるまい、
逆に失意の時には、ゆったりと構えるべきであるという意。
中国の明時代に崔後渠という人物が書いた『六然(りくぜん)』からの引用とのこと。
先人が与えてくれたリーダーシップの極意の一つといえるでしょう。

トップも、幹部も人間ですから得意になることもあります。
そんな時にはどちらかが、調子に乗らないように冷やしにまわる。
部下が落ち込んでいるようなら、悠然と構えてあげなさい、というわけです。

いかがでしょう、順調な時に淡然とふるまうのはさほど難しいことではありません。
しかし、業績が大きく落ち込んだ時に、心から落ち着き払うことができるでしょうか?
社員が意気消沈している時に、トップが泰然自若に振る舞うのは、極めて困難といわざるをえません。
それは強い態度を示してはいても、じつはトップ自身が失意の渦中にあるからです。

「泰然」の根本に「覚悟」あり

人生では「得意」と「失意」が波のように交互にやってきます。
今、日本中の多くの経営者が失意の真ん中にいるでしょう。
これまで積み上げてきた多くのことが崩れ去り、
先が見えない不安のトンネルの中を走っている。

このまま行ったらどこまで悪くなるのか…。
売上が半分近くに落ち込むのでは…いや、それ以下かもしれない。
ならば多くの社員に辞めてもらわなければならないが、それはできない…。
そんなことを考えていると、夜もろくに眠れません。

今回の不況は、私たちに重要なことを教えてくれました。
~人間の能力で未来を予測することはできない~
過去を分析するのは重要だが、その延長線上で考えても意味がない。
リーマンショック以降、これほど急激な経済降下は誰もが予測できませんでした。

これから先の経済状態がどうなるか、全くわかりません。
もし仮に、来年あたりに景気が回復するであろうという予測ができても、
我が社が浮上して、順調に経営ができるかどうかは別の問題なのです。
しかし、未来予測はできないけれども、はっきり分かっていることがあります。

それは、あなたが今まで経験したことのない状況に置かれる、ということです。
不良債権の処理、在庫処分、人的リストラ、過剰設備への対応、など…。
それは試練としてあなたの肩に、のしかかってくるかもしれません。
このような時、日本にはリーダーを勇気付ける言葉があります。
「覚悟を決める」

どんな状況におかれても、過去にとらわれず、未来にこだわらず、
「今」を精一杯に生き切る。
そして、はじめの一歩から出直す”覚悟”さえあればいい。
泰然と構え、今できることを一つひとつ進めることが、
社員にも経営にもいい影響を与えることでしょう。

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