バイマンスリーワーズBimonthly Words
なせばなる
新年明けましておめでとうございます。
本年もバイマンスリーワーズ、そして新経営サービスをどうぞよろしくお願いします。
今回の不況は巨大規模であることに加え、とにかく進行のスピードが速い。
実際にどれほどの影響があるのかは未知数ながら、
下請け企業への減産や人員削減など、大手メーカーの対策がすばやい。
消費者のマインドは一挙に冷え込み、またもデフレに逆戻りする傾向にあります。
新しく事業を起こしたが、急激な環境の変化に苦しむ若き起業家たち。
乏しい人生経験ながら激動期に会社を預かることになった後継経営者。
老体に鞭打ちながら、最前線で経営に当たることになったベテラン経営者。
現場一筋のビジネスマンから、経営陣に抜擢された部門のマネージャー。
心の準備もままならず、経営環境はすでに大激流に突入しています。
社内に向けて空前の危機であることを訴え、社員の奮起を促すのは当然。
しかし、社員を脅かすような姑息な説得が通用する半端なレベルでないことも確かです。
今回はひょっとしたら、あなたの経営人生を賭した戦いになるかもしれません。
今も通用する上杉鷹山の経営改革
経済危機になると見直される偉人といえば、やはり上杉鷹山。
瀕死状態にあった藩の財政を建て直した、江戸後期の米沢藩主です。
一般に鷹山は質素・倹約で成功した政治家とされていますが、
実像は人徳とマネジメント力を備えたすぐれた経営者でした。
彼は米沢藩の財政危機を救うため、ただちに大倹約令を出した。
自ら範を示し、着物は木綿、食事は一汁一菜、という徹底振り。
支出を減らすだけでは、藩の財政は立ち行かないため、農業の育成、治水事業、
米沢織などの新規事業をみごとなリーダーシップで推し進め、藩の財政を立て直したのです。
鷹山の経営改革は、今の時代でもそのまま見習うことができます。
まず徹底したコストダウン活動と、思い切ったリストラを断行する。
そして、新たな付加価値をあげる事業を戦略的に進めながら、
信念に基づくリーダーシップを発揮し、組織の若返りを行なうというものです。
鷹山は改革に向けての誓いを、米沢藩主についた17歳の時に短歌に託しています。
「受けつぎて 国のつかさの身となれば 忘れまじきは 民の父母」
子供の苦しみは父母の苦しみであり、子供の喜びは父母の喜びである。
父母が子供の幸福を願うのと同じく藩主は領民の父母であり、領民はその子供であると考えたのです。
ここで大きな疑問が残ります。
鷹山は、17歳という若さで本当にこのような思想にたどりついていたのか?
それが本当であっても、これほどの改革が実行できたのはなぜなのか、という素朴な疑問です。
その疑問を解くカギは、彼のブレーン、つまり”師”の存在にありました。
西郷隆盛、吉田松陰にも影響を与えた細井平洲
その人の名は、細井平洲。
平洲は儒学者ですが、経済との両立を目指す実学の人でした。
「治者は民の父母でなければならない」 これが「嚶鳴館遺草」で説いた”愛民”の思想です。
これこそが、鷹山が藩主になったときの誓いそのものです。
西郷隆盛の「敬天愛人」の思想も、この書から生まれ、
幕末の指導者、吉田松陰も平洲の書物を絶賛したという。
また経済との両立には、藩主自らが質素倹約の見本を示すことの大切さを説いています。
鷹山は14歳から細井平洲の教育を受け、米沢へも三度招いて指導を受けている。
改革を進める鷹山の心の中には、いつも師である細井平洲がいたのです。
平洲の人格と実践の哲学によって支えられた鷹山は幸運でした。
人生において”師を選ぶ”ことはいかに重要なことであろうか…。
もちろん、優れた師にめぐり会えたからといって必ずうまくいくわけではありません。
人が成長するには、実践を通じて鍛えられなくてはならない。
鷹山は、平洲の指導は受けたが、平洲に鍛えられたわけではない。
では、鷹山は誰に鍛えられたのでしょうか?
それは、上杉家の伝統やしきたりという制度面での壁であり、
既成の制度を守ろうとする、幹部との軋轢の壁であり、
何よりも”倒産寸前であった藩の財政”そのものが、鷹山を鍛えたのではないでしょうか。
鷹山はこのような壁を前にして逃げなかった。
逃げることなく、厳然と立ち向かったからこそ、鷹山の経営能力が高まったのだと思われます。
経営者の「苦」は"外に求める心"によって起こる
松下幸之助氏が、かつて新入社員に対して次のような話をしています。
「いい指導者がつけば上達はするが、すべて先生の通りでは画期的なものは生まれない。
偉大な名人は、無理解で、ほめられて当然のことをぼろくそに言う、非常識な先生のもとから出ている。
“やめてしまおうか”と思うが、それを辛抱し、苦労した時に先生を抜くような名人が出ていると思う。」
この話は、松下電器に入社して間もない新入社員に聞かせたというから、さすが経営の神様。
氏は、どう考えても優秀と思えない指導者からでも、人は成長し、名人は生まれるという。
人間が抱く「苦」の一切は、”外に求める心”によって起こるといわれています。
「上司が無能だから、俺が活躍できない」
「部下が動かないから、改善が進まない…」
できない理由を外に求めている間は、なにも実現せず、苦から解放されることはありません。
有名な上杉鷹山の歌が、今の世に語りつがれています。
なせばなる なさねばならぬ なにごとも (為せば成る 為さねば成らぬ 何事も)
ならぬは人の なさぬなりけり (成らぬは人の 為さぬなりけり)
あなたが行動を起こすために必要なものはすでに備わっています。
必要な範囲を動く身体、考える頭脳、人を説得する口…。
おおむね身支度ができている会社は、流れに逆らわず、一歩ずつ進んでいきましょう。
昔、京の人が江戸へ行くには、東海道を一歩ずつ歩きました。
あせる気持ちで、悪天候の中を走り続けたら、途中でぶっ倒れてしまう。
天候をみながら、一歩ずつ歩き続けるならば、必ず目的地に着くのです。
身支度がまだの会社は速やかにかかりましょう。
ムダを省いてスリムな体質にし、
状況によっては事業の統廃合や人事面でのリストラを断行しなければなりません。
“断じて行えば鬼神もこれを避く”
ためらうことなく、自信をもってやればできるものです。