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バイマンスリーワーズBimonthly Words

ネズミの桶かじり

1991年09月

こんな説話があります。

 

ある晩、ネズミが一匹桶の中に落ちた。飛び上がって出ようと最初は大いに努力したが桶が深くてとても無理であった。そこで今度は、桶の側の木を喰い破って外へ出ようとかじり始めた。しばらくやってみたがどうも木が分厚くて喰い破れそうもない。

あわてたネズミは違う場所をかじり始めた。必死になってかじってみたが、やっぱり駄目だった。そこでその場所をあきらめて、また次の場所に移ってみた。しかし、分厚い側の板は到底喰い破れそうもなかった。

散々に報いられることのない努力をしたネズミは、とうとう明け方近く、心身ともに疲れ果て、空しく死んでいった。初めかじり始めた箇所を最後までかじり続けておれば桶の側の板に自分が通り抜ける穴ができていたのに………。

 

世の中にはこのネズミを笑えない人も多いのではないでしょうか。

一つのことで失敗して、また他のことに失敗し、転々と会社を変えていく人がいます。

また、事業家の中にも、もうかる商品と思われるものばかりを追いかけて、結局失敗するという人がいます。悲しいことですが、いつの世にもよくあることのようです。

しかしながらじっくり考えてみると、このネズミの心境、わからないでもありません。例えば、毎夜日課のようにテレビのニュースを見ている私は、一つの局に絞ればいいものを、どうしても他局のニュースが気になり、チャンネルを一通りまわしてからやっと一つの局に落ちつきます。

交通渋滞に巻き込まれたとき、抜け道を探して逃げ込むと、ここも渋滞。「やっぱりもとの道の方が早かった」なんてこともよくあります。

 

つまり、今、自分が選択していることに「これでいいんだろうか?」と迷いが生じることは日常茶飯事に起こっていることなのです。迷いが起こって他の方法を調べてみる。自分の方が正しいと判断できれば安心し、でなければ、行ったり来たりする。大なり小なり私達はこんなことを繰り返しています。

着実に、しかも安全に前進するという意味においては、このようなスタイルもいいかもしれません。しかしこんな状態が続けば、もともと力がない中小企業では途中で力尽きてしまいます。ある一点に全力を集中させ、思い切った施策を打つことも正しい成長を実現するためには必要に思うのです。

経営者にも失敗を冒す権利がある

では、なぜ私達は自分の思いに迷いが生じるのか?

それは、“このまま行けば自分は失敗するのではないか”という恐怖心がそこに働くからです。失敗を恐れるために安全策をとろうとしたり、自分の保身を考えたりしてしまうのです。その結果、好機を逃し、恐れを抱いていた自分に、後になって後悔してしまいます。

これは、冒険すべきであると言っているのではありません。失敗を恐れ、自己の保身を考え出すと正しい意志決定ができないと思うのです。経営者や幹部社員にも失敗はあります。つまり、“失敗を冒す権利”があるのです。失敗を失敗のままで放っておかず教訓とするなら、人間の幅が拡がり、新たな成長機会が訪れるはずです。迷わずに、自分の思いを信じて日々を送りたいものです。

 

秋の夜長、時には一匹のネズミの話から、自分を振り返ってみるのはいかがなものでしょうか。

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