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バイマンスリーワーズBimonthly Words

互譲互助

2021年11月

「副業をもちたい? とんでもない!」
一昔前の経営者ならこれが当たり前の感覚です。
ところが今年、民間の調査機関がまとめた結果では、
社員の副業を容認する企業の割合が過半数を超えました。

少しばかりの不動産収入、農業などの兼業ならわかりますが、
自社で磨いたスキルを異業種とはいえ、他社で副業に使うのはどうか。
長時間労働を招き労災認定が難しい副業は、情報漏えいも心配されるため、
45%の企業が禁止しており、中小企業の経営者にとっては悩むところです。

テレワークによる働き方もほぼ定着したようで、
移動時間とコストが減って大いにメリットがあります。
ところが対面のコミュニケーションが大幅に不足するため、
片寄りすぎたら予想もつかない悪影響が発生するかも知れません。

週休三日制を導入する企業も徐々に増えています。
正社員が週に三日も休めば業務に支障が出るでしょうから、
それは全社員対象か一部の社員か、年間を通じてか一定期間か、
また副業を容認するのか、といった課題をクリアする必要があります。

働く人の環境は、ますます高度なものに進化していますが、
中小企業はどこまでを認め、どの段階で導入を検討すべきか。
こんな昨今、「人間尊重 大家族主義」の思想を貫いた名経営者、
「出光佐三」が生きていたら、どんな経営方針を打ち出すでしょうか。

モラルと日本の道徳は まったく違う

出光佐三は明治18年(1885年)福岡に生まれた出光興産の創業者。
その方針は当時でも型破りな「出光の七不思議」と呼ばれるものでした。
一、定年がない 二、首切りがない 三、出勤簿がない 四、労働組合がない
五、給料を公示しない 六、残業手当を受け取らない 七、給料は労働の対価ではない

賃金レベルが低く、労働時間も長かった当時は労働者が団結し、
時にはストライキという強硬手段で経営側と対立するのが常でした。
また、占領軍による統制下の時代は科学的管理法が経営の主流でしたが、
反骨精神の強い佐三は、この流れにも逆らって日本的な道徳経営を貫きました。

佐三は外国のモラルと日本の道徳を比較してこう指摘しました。
「モラルとは我欲の征服者がつくったものである。
 征服者は大衆を治めるために法律・組織・規則をつくったが、
 それを被征服者である大衆が守ることがモラルである」

そして、道徳とモラルでは全く違うという。
「日本の道徳は、お互いが仲良く平和に暮らすために、
 人間の真心から自然と湧き出たものである。
 『無我無私』『互譲互助』『恩』『犠牲心』『義理人情』などがそれで、
 日本の道徳は紙に書いたものではなく、人間の真心から出たものである」

モラルが成立する背景には法律を守るという“義務”がある反面、
禁じられたこと以外はやって良い“権利”の根拠を生みました。
よってモラルは、権利と義務の関係で成り立っており、
その根底には“対立”の思想が横たわっています。

権利の意識には上位者に対する依存心、つまり甘えの心があり、
先に権利を主張し、義務を後にまわす人間が生まれやすい。
賃金水準が総じて上昇し、労働時間も改善された今では、
依存心ではなく“自立心”をもった若い人材が求められています。

「互譲互助」の精神が 混乱を解決する万能薬

若い社員が依存心を捨て、自立心を持たせるにはどうすればいいか?
「一人ひとりが経営者であり、仕事は完全に任せるのが“出光流”である」
そこで佐三は、権利よりも上位にある“権限”を与えると共に、
義務よりも上位にある“責任”も与えたのです。

入社式の訓示で佐三はこう述べています。
「君たちが三年ほどして、よその会社の会議で何かを決める時、
 他の会社の人は『それでは帰って重役に報告して返事します』と必ず言う。
 しかし、出光では『これは自分が決めていい』と思ったら、
 その場で『よろしい』と返事すればいい」

規則で社員を縛ることを極端に嫌った佐三は、
社員の人間性を尊重し、可能な限り規則を排除しました。
そして、お互いが権利を主張し、対立することがないように、
「互譲互助」の精神を経営の柱に据えたのです。

「世の中には混乱がある。それもたったひとつで、
 解決がつきゃしませんか。それは“お互い”ということですよ。
 我欲の人間が仲良く暮らすためには『互譲互助』の思想に徹する以外に
 道はありませんね。これは日本人の道徳の根幹です」

今の時代では“従業員”という呼び名もしっくりしません。
命令に“従”い“業”につくという言葉が潜在意識に組み込まれ、
いわれた通りに仕事はするが、自力で判断ができない人材を生みやすい。
そこで“従業員”を、主体的な仕事をする“主業員”に変えた企業もあります。

中小企業の経営者が現場の作業をするのは当たり前で、
従業員が会社の代表としてお客様に接することもあります。
つまり、経営者が従業員になり、従業員が経営者にもなるわけで、
対立した呼び名ではなく、お互いが仲間とした“社員”でいいでしょう。

“自立・自走式の社員”を育成しよう

コロナ危機から脱出する時がやってきました。
ここでも元気な人は困っている人を助けましょう。
経済的に苦しい社員がいて、悩んでいる経営者もいます。
経営側とか働く側ではなく、今が「互譲互助」の時なのです。

副業やテレワーク、週休三日制などは自立した社員に有効であって、
依存心が強い社員に導入すると、かえって甘えを助長します。
まずは一人ひとりが自分の意思で判断をし、行動ができる、
そんな“自立・自走式の社員”を育成することから始めましょう。

二人以上の人間が生きていくには、お互いが仲良く暮らすに限ります。
相手の立場をいつも考え、お互いに譲り、お互いを助ける…
こんな互譲互助の精神が、若い社員に根付いてきたなら、
あなたの会社の将来は輝かしいものになるでしょう。

佐三は平和を愛し、人類愛に溢れるリーダーでした。
「これからは仲良くするあり方を世界に教えるんだ。
 そして世界の全人類を平和に導き、幸福にしてあげるんだ、
 というような遠い大きな目標をもって進んでいってもらいたい」
         (以上『日本人にかえれ』ダイヤモンド社 より引用)

米国と中国による発生源のなすり合いから始まった「コロナ世界大戦」。
ようやく治療薬が開発され、うっすらと出口が見えてきましたが、
中国の台頭と、それを抑えたい米国との関係がやはり不穏です。
いつの日か、日本の道徳精神が平和に利用される時を祈るばかりです。

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