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バイマンスリーワーズBimonthly Words

それぞれの勇気

2022年01月

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

「誰だって…不安で怖い。
 それが大舞台なら なおさらです。
 でも、孤独も敗北も、何かを失う可能性も、
 全てを覚悟して受け入れ、前に進むのが勇気です」

平昌五輪のスピードスケート金メダリスト 小平奈緒選手の言葉です。
35歳という年齢とも闘う今回の北京五輪は、四度目の挑戦。
アスリートにしては珍しい、民間病院所属の小平選手は、
医療従事者に対する思いも寄せて挑戦しています。

「勇気を持って生きている人は、スポーツ選手だけではありません。
 地味な毎日でも凄まじい勇気で歩み続けている人がいます。
 病気と闘っている人、家族の介護をしている人、
 お客様のために奮闘している人、罪悪感の中で生きている人…。
 すべての勇気ある人に拍手したいと思います」

“氷上の哲学者”の異名を持つ小平選手は、
慎重に言葉を選び、ていねいに思いを語ります。
知性のにじんだこの言葉は、経営者の心にも響きます。
「私たち皆が“私にとっての勇気”を持って生きていきたいと思います」

さあ、私たち中小企業の経営に携わる人間にとって、
“私にとっての勇気”とはいったい何でしょう。

幹部の勇気は 下向きよりも 上向きに

通常、幹部はトップに指名されて就任します。
そんな「経営幹部にとっての勇気」とは何でしょう。
様々なタイプの部下を率いるリーダーシップも必要ですが、
本当は自分を指名した、経営トップに対する勇気ではないか…。

中国の唐の時代には「諫議大夫」という官職がありました。
皇帝の過ちを諫め、あるべき姿勢について意見を述べる役割で、
独善的な政治に陥らないよう耳の痛い「諫言」をするのが主な仕事。
名君といわれた太宗の言行録「貞観政要」にやりとりが描かれています。

多様性が求められる昨今で、新たな働き方を認めない経営者や、
公私の区別が甘いまま、権力を握り続ける経営者もいます。
このような経営者ほど自分の過ちに気づかないために、
身近にいる幹部の忠告やアドバイスが必要です。

ところが幹部になった途端にイエスマンになる人がいる。
自分を登用した人に忠告するのは勇気がいりますが、
トップも人間であり、過ちを冒すこともあります。
時には切腹を覚悟で諫言することも必要でしょう。

逆に、判断ミスや業績不振でトップが落ち込んでいる時は、
内側から勇気づけることも経営幹部の重要な役割です。
トップの過ちには堂々と指摘し、時には勇気づける、
このような経営幹部の勇気ある行動が会社を救います。

経営の訓練を続けることで 心と技が磨かれる

次に「後継経営者にとっての勇気」とは何でしょう?
後継経営者に内定された時から周囲の期待は高まりますが、
辛いかな、トップの座に就いた後も先代社長と比較されます。
うまくできて当たり前、業績を落とせば“期待外れ”に格下げです。

そして、危機的な状況になれば経営者としての能力を疑われ、
最後には代表者としての責任が重くのしかかってきます。
社員とその家族、多くの取引先とのことを考えると、
勇気どころか逃げ出したい気持ちで一杯になるでしょう。

何度も国際舞台を経験した小平選手はこう言い切ります。
「私にとっての勇気とは“覚悟”することです」

覚悟とは、困難なこと、危険なこと、不利なことを予想して、
それらを受け止める心構え、という意味になるでしょうか。
経営者は常に最悪のことも想定する必要がありますが、
後継経営者にとっての覚悟とはいったい何か?

世界トップクラスのオリンピック選手たちは、
極限に近い“訓練を続ける覚悟”をしています。
同じく、中小企業の経営者の仕事も“訓練”なのです。
目標を設定し、目標達成に向けたマネジメントに失敗しても、
あきらめず繰り返していくことで、経営者の心と技が磨かれます。

そう、経営とは訓練なのです。
今は心と技を鍛える訓練が必要な時です。
経営の厳しい“訓練を続ける覚悟”をすることが、
後継経営者にとっての真なる勇気ではないでしょうか。

晩年には 退く勇気と 生まれ変わる勇気を

それでは経験を積んだ「経営トップにとっての勇気」とは何か?
ベテランでも新しい事業に進出する際には勇気が要るし、
永年続けた事業から撤退する時にも勇気は要ります。
何度も危機を経験し、最悪の覚悟もしたでしょう。

今回、より高みを目指す小平選手の座右の銘は、
私も敬愛する マハトマ・ガンジーのこの言葉でした。
~ 明日死ぬかのように生きよ 永遠に生きるかのように学べ ~

人には誰でも寿命があり、それはいつ訪れるか…わからない。
明日にも命が尽きるかもしれない“覚悟”ができたなら、
過去の栄光や挫折、未来の期待や不安から解放される。
ならば一人の人間として真にやりたかったことが見えてくる。

人は生きながらにして、生まれ変わることができます。
伊能忠敬は50歳で長男に酒造業としての家督を譲り、
やりたかった測量の勉強をし、日本地図を完成させました。
一方では、先代社長が急逝し、嫌々ながら経営を引き継いだが、
全力で取り組むうちに経営が楽しくなり、人生が変わった人もいる。

あなたがこの世に生まれ、真にやりたかったことは何か?
それが人を育てることならば“退く勇気”も要るでしょう。
そして様々な事情で本意ではない人生を歩んでいる人もいますが、
いつかその日が来たら…“生まれ変わる勇気”も必要になるでしょう。

人はそれぞれに苦しみや辛さを背負ってゴールに向かっています。
それでも勇気を持って生きるすべての人にエールを送ります。
~ 門松は 冥途の旅の一里塚
  めでたくもあり めでたくもなし ~ 一休宗純

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