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バイマンスリーワーズBimonthly Words

鬼と仏と相住める

2022年07月

「戦争とは嘘の体系である」
~ 戦争はすべて嘘で構成され 嘘のない戦争はない ~
第一次世界大戦の最中、オーストリアの作家がこう語りました。
情報操作が最強の武器になり得ることを思うと、なるほどと感じます。

並外れた演説力を武器に大衆を熱狂させたヒトラーは、
「われわれは平和を愛している」と連呼していたという。
奇襲作戦の真珠湾攻撃から始まった太平洋戦争においても、
それらを主導した日本の指導者の多くが平和を訴えていました。

しかし、平和の主張は情報操作だったのでしょうか…。
当時の国の指導者は勝てるはずのない米国と戦争を始め、
戦争をやめるタイミングを誤り、被害を拡大させてしまった。
“大本営発表”などは、信用できない情報の代名詞になりました。

今回のロシアによるウクライナ侵攻はどうなのか?
私たちに日々届いている情報はどこまでが真実なのか…。
デマやフェイクが混じった情報がネットやメディアに氾濫し、
多くの人が情報に流されて自己を見失う危機に直面しています。

ところが、経済面の実態は、ロシア問題で物価が高騰し、
原材料や燃料代などのコストが急激に経営を圧迫しています。
同業者と戦うつもりはありませんが、企業としての存続に向け、
価格改定や取引先の変更など、戦略の見直しが急務になっています。

部下の指導と育成に テクニックは通用しない

ここで企業の戦略・戦術・戦闘の関係を整理しておきましょう。
戦略とは、どのような市場で、何を提供するのか、であり、
戦術とは、どんな方法で市場に入り込み、続けていくか。
そして、戦闘はビジネス現場での具体的な方法です。

戦略を実行する際は、幹部の動きがカギを握ります。
幹部はトップが決定した戦略に沿って戦術を練っていきます。
ところがトップも人間であり、過ちを冒し、思い違いもあるため、
時と場合によってトップに苦言を呈することも幹部に必要な役割です。

戦術面で失敗をしても戦略で補うことはできます。
しかし、戦略面での失敗を戦術で補うことはできません。
だからこそ幹部が先んじてトップが考える戦略ミスに気づき、
経営判断を間違えないよう、意見が言える信頼関係が重要なのです。

幹部はこうやって、厳しさと優しさでトップを支えながら、
最もエネルギーを要する戦闘部隊の指導・育成に注力します。
戦略・戦術を理解し、戦闘に耐える強い人材を育てるわけですが、
その指導方法は限りなく存在し、これが正解というものはありません。

たとえば、“アメとムチ”という方法があります。
結果によってアメ(報酬)とムチ(罰)を使うのですが、
指導者の都合に合わせるテクニックであり、いかがなものか。
“〇〇式”などという指導方法に、はたして部下がついてくるか?

仏の心と鬼の心をさらけ出す

弱小球団だった広島東洋カープを75年に球団創設初優勝に導き、
常勝“赤ヘル軍団”に育て上げた名指導者、古葉竹識 元監督。
見かけは紳士ですが、グラウンドでは妥協を許さない熱血漢で、
選手に対する厳しい指導でスパルタ教育を貫いた“鬼の監督”でした。

ベンチではいつもバットケースの陰に身を隠していましたが、それにはワケが…。
怠慢プレーで戻ってきた選手を、テレビカメラに映らないように蹴り飛ばし、
表情は笑顔のままなので、“蹴り”が入っていることはわからない。
赤ヘルナインにとって、それは“恐怖の古葉キック”でした。

ところが厳しいのは球場内だけで外では優しい人でした。
遠征先では試合後に、監督、選手が一緒に食事をするが、
打たれた投手、打てなかった野手にも自らビールを勧めた。
シーズン終盤の消化試合では2軍から上がった給料の安い選手に、
あえて出場機会を作り、1軍出場手当が出るように配慮したともいう。

「耐えて勝つ」を座右の銘にして、選手の心を掌握した古葉さん。
今の時代なら体罰を振るう監督として“一発アウト”ですが、
鬼のような指導と、仏のような優しさを持った監督でした。

~ このからだ 鬼と仏と 相住める ~
この身体には仏様のような優しい心と、
人殺しもやりかねない鬼の心も同居している…。
大阪の刑務所に収容されていた死刑囚が詠んだ句です。

古葉さんの指導法は一見“アメとムチ”のようですが、根本が違う。
“アメとムチ”は自分の都合に誘導するテクニックにすぎません。
ところが、古葉さんの指導は“鬼の心”と“仏の心”をさらけ出し、
選手の成長のために全身全霊を出し切る、真剣勝負の指導だったのです。

戦略とは「戦(たたかい)を 略(はぶく)」ことである

もちろん経営トップにも、鬼の心と仏の心が棲んでいます。
軍の指導者や政治家に、戦争と平和の両極の心があるように、
鬼のような心も、仏のような優しい心もどちらもあなたの本心です。
だからこそきれいごとでなく、人として素直に思う気持ちを出せばいい。

何千年も大自然の恵みの中で生きてきた農耕民族と、
獲物を罠にかける狩猟民族がぶつかったらどうなるか?
~ 戦争はすべて嘘で構成され 嘘のない戦争はない ~
冒頭のこの話は狩猟民族の産物であり、農耕民族に勝ち目はない。

長年、戦略参謀という仕事にも携わり、
戦略研究を続けた経営学者の田坂広志氏は言います。
「戦略と書いて、戦(たたかい)を 略(はぶく)と読む。
戦略思考とは、いかに戦うかではなく、いかに戦わないかである」

まさに「孫子の兵法」がいう“戦わずして勝つ”の思想です。
同業他社は技術力や品質面では、競争すべき相手ですが、
いつも戦いを挑んで、倒すことを狙う相手ではありません。
それよりも、あなたが挑戦すべき相手はもっと近くにいます。。

今の局面に対して、“鬼の心で厳しい判断”をするべきか、
いや、“仏の心で優しく判断”するかで迷っているあなたがいる。
これではダメだと、弱い心になっているのも素直なあなたの心です。
今こそ“心を鬼”にして、そんな自分を鍛え直すことに挑戦しましょう。

私が野球に没頭していた高校時代に指導を受けた監督は、
怠慢プレーに対してノックバットで尻を叩く鬼監督でした。
今はその監督と草野球を楽しみ、私が憎まれ口を叩いています。
スパルタ教育が過去の遺産になったことをありがたく感じています。

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