バイマンスリーワーズBimonthly Words
不立文字
~ 雨降りても カタツムリは進む 経営の道 ~
何度もつらい思いをしたが、なんとか続けた経営者の一句です。
字余りがあって、全体の出来映えもどうかと思いますが、
中小企業経営者の心情はうまく表現されています。
さて、作者はどんな業界の どんな人なのか?
それは、対話型のAI「チャットGPT」でした。
季語と作者の意図を告げて「俳句を作ってください」
と依頼したら、このような句が10句ほど出てきました。
昨年に「チャットGPT」が公開されたのに続き、
今年5月に米グーグルが「Bard」を公開しました。
その便利さからあっという間に世界中に広がった生成AI。
クリエーティブな能力は産業革命に匹敵するといわれています。
ところが、生成AIは様々な仕事を自動化できるため、
世界で3億人分の仕事を消滅させるという推計もあります。
米ハリウッドでは人工知能に仕事を奪われかねないとして、
映画の脚本家らが集まって大規模なストライキが行われました。
それは企業内の仕事がなくなるだけではありません。
弁護士ドットコムなどのネットを使った法律相談や、
私共、経営コンサルタントやカウンセラーへの相談など、
サービス業の市場が急激に減少する可能性も秘めています。
生成AIは人類滅亡のリスクを負っている?
今回の技術革新は経営者の存在も不要にするかも知れません。
経営者の仕事は、状況をつかんで的確な判断をすることですが、
日々データが更新され、AIが最適な判断をし、社員がそれに従う。
これは店舗の商品管理や物流の現場で、すでに動いているシステムです。
そこに創造性のある生成AIが加わったら経営者は要らないでしょう。
私たちは人工知能に支配される入り口にいるのかも知れません。
ところが生成AIはネット上の膨大な情報を利用するため、
そこには誤った情報や、フェイクニュースも含まれています。
ということは、誤情報や捏造情報をもとに経営判断が行われ、
ある勢力によって会社の方向性が誘導されることも考えられます。
株主に支配されず、自立した経営ができるはずの中小企業の経営者が、
知らぬ間に意思決定の権限が奪われていた、となるのは困ったものです。
学生が論文の作成に使うと学力や思考力の低下を招き、
著作権の侵害問題や、情報漏えいのリスクは限りありません。
多くの企業や大学が危険性を指摘し、警鐘を鳴らしているのに、
なぜか政府が生成AIに“前のめり”になっているのが不可解です。
チャットGPTを開発した会社のCEO サム・アルトマン氏は、
「生成AIには人類滅亡のリスクがある」と自らコメントし、
「リスク低減に取り組むことが世界的な優先課題」
と世界に向けたルール作りを急いでいますが、どうなるか。
私たち人類は生成AIをうまく活用しても、
支配されないように一人ひとりの注意が必要です。
ましてや変化に対する最適な判断が求められる経営者は、
目前に迫る変化に、どのような心構えで立ち向かえばいいのか。
文字の中に真理はない 文字に頼ってはならない
お釈迦様が 霊鷲山(りょうじゅせん)の頂で大勢の弟子に説法をされていましたが、
その日は何も語らず、一輪の花をかざすだけで終わりました。
弟子たちはその意味を理解できず唖然としていましたが、
一番弟子の 迦葉尊者(かしょうそんじゃ)だけがにっこりと笑いました。
迦葉尊者が説法の真意をくみ取ったことを理解したお釈迦様は、
自分が説いてきた仏法のすべてを迦葉尊者に授けたという。
お釈迦様が一輪の花を使って弟子に伝えたかったのは、
「言葉にできない教えがある」というものでした。
~ 教外別伝(きょうげべつでん) 不立文字(ふりゅうもんじ)~
教外別伝とは、悟りは言葉で伝えられるものでなく、
心から心に直接伝えるべきものである、ということ。
不立文字とは、真理は文字や言葉では規定できないため、
体験によって伝えるべきものである、という禅の本質です。
2500年前に文字で経典を表すことは最先端の技術だったでしょう。
しかし、経典の中に答えがあると思うな、文字の中に真理はない。
自らの体験をもっとも大切にせよ、とお釈迦様は教えました。
ところが「文字の中に真理はない」と語ったその瞬間に、
文字で伝えようとしている自分がいるではないか…?
不立文字とは文字を軽視することではありません。
文字が大切なものであることを知った上で、
自ら体験したことを土台にしなければ、
真実を知ることはできない。
文字を認め、不完全さも認めよ。
そして文字に頼らず、自らを真理とせよ!
この「文字」の言葉を「AI」に置き換えると、
新たな時代を生き抜く経営者の心構えが見えるでしょう。
周囲の人は 経営理念の文言とは違うあなたを感じている
不立文字の思想は経営の現場にも生きています。
企業は経営理念として周囲に方針を伝えていますが、
その言葉には経営者の真意が表現されているでしょうか。
それが形式に留まり、人々の心に浸透していないケースが多い。
周囲の人は、経営理念に書かれている文言よりも、
経営理念を発している、あなたの中身を見ています。
特に後継経営者に対しては、事業運営に自信はあるのか、
会社への使命感は、そして、覚悟は備わっているのか、と。
周囲の人はあなたの真剣な眼差し、落ち着いた表情など、
言葉以外の立ち居振る舞いから真のあなたを感じています。
経営がうまくできるかどうかは、やってみないとわかりません。
ここは何も飾らず、誰にも頼らず、真っすぐな心で向き合いましょう。
今、日本を代表する若者は、大リーグで活躍する大谷翔平選手と、
二十歳で将棋界の歴史を塗り替えた藤井聡太名人でしょう。
二人に共通することは、人工知能の技術を使いこなし、
自分の道を一途に信じて突き進んでいる姿です。
そして、何よりも共感を得ているのは「謙虚な姿勢」ではないか。
表舞台の裏側でも日々精進を重ね、自分を鍛えています。
謙虚な若者の姿勢が、経営者にヒントをくれる。
そんな若者が育つ日本の未来は… 輝いています。
~ 日々精進 一途に謙虚に 月見草 ~