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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

おかげさま

2024年01月

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。

龍は中国で考え出された架空の動物ですが、
日本の禅宗寺院の天井などで見かけることも多い。
様々な説がありますが臨済宗の僧侶 玄侑宗久氏によると、
龍は七つの動物の部分を組み合わせて誕生したのだそうです。

まず胴体は「蛇」で地に足をつけた現実性を意味し、
ヒゲは「鯉」、逆流を遡る強い生命力を表わしている。
攻撃するのではなく、専守防衛のための角は「鹿」だ。
足というか、手は「鷲」で鷲づかみの強い意志を表現している。

耳は「コウモリ」で超音波を使う優れた聴覚は昔から知られていたのか。
「ラクダ」に似せた顔は過酷な環境でも呑気な風体を美徳としたもの。
最後に入れる眼は、「牛」の眼を参考にしたらしいが、
牛は純朴で落ち着いているからだといわれている。

私なりにまとめると、現場重視で現実を直視し、
逆境に強い生命力をもって、攻めと守りができる。
つかんだチャンスを逃さない執念と強い意志をもって、
敏感に情報をキャッチし、常は平静に大らかな心でいる。
こう考えると「龍」はまさに企業経営者の理想の姿ではないか…。

オレが オレが の「我」を捨てよ

なぜ龍にはこのような高度な能力が与えられたのか。
人類はことごとく“天の災い”に苦しんできました。
大雨や雷、竜巻や台風などの突然にやってくる災害や、
時には何日も雨が降らない日照り続きの苦しみもあります。

中国ではこのような天の変化は「龍」という生き物によって生じ、
龍が雲を呼び、恵みの雨を降らせて万物を養うとされました。
万能の力を持つ龍が天を動かし、多くの生物を救うように、
経済界にも高度な能力を持ったリーダーが求められます。

優れた商品を生み出す技術力を持っている人、
商品をお客様のニーズに合わせて売る販売力のある人。
このような能力に優れた人が龍(経営者)となって起業をし、
多くの経験を積んで能力を高め、更に社会に貢献する飛龍になる。

私事で恐縮ですが、経営コンサルタントとしての仕事を、
事業として始めることを決意した時、父に報告に行きました。
小さな飲食店を経営していた父は、笑顔で賛成してくれましたが、
私の性格をよく知った上で、最後にこんな言葉を添えてくれました。

「この心構えを大切にしておくといい。
オレがオレが の“我”を捨てて、おかげおかげ の“げ”で生きよ」
説教めいたことは一切言わなかった父が、なぜかこう言ったのです。
その時に深い自覚はなかったのですが、30歳の若僧の心に刻まれました。

数年が経って、事業に危機的な状況がやってきました。
「ここでオレが頑張らなくては……」と踏ん張りましたが、
力めば力むほど、周りの人たちの心は私から離れていきます。
そして父の言葉を長年蓄えた今、ようやく真意が見えてきました。

経営者自身が支えられていることに気づいていない

~ おかげさま ~
神仏からの加護の意味がある「御蔭」が語源とされ、
「さま」を加えて「お陰様」になったと言われている。
今ではお世話になった方への感謝の言葉として使われます。

中小企業の未来は無限に広がっていますが、現実は小さな市場です。
そんな小さな世界で、周囲の人より少し能力のある経営者は、
自分は誰よりも優れ、他者は劣っていると錯覚しやすい。
そうすると、相手の弱点ばかりが目に付いてしまう。

“オレがオレが…”の我の強さはここで生まれます。
技術、営業などすべての面で問題解決の先頭に立っても、
部下の多くは言われたことだけをやる“指示待ち族”になる。
そして、経営者の努力は空回りし、“裸の王様”になってしまう。

ところが“おかげ おかげ…”を意識して人と接していると、
少しずつながら“他者の力(他力)”を感じるようになります。
すると、考え方が合わなかった幹部の意見も耳に入るようになり、
不満として聞こえていた現場の声も、すう~と素直に入ってきます。

「人」という文字が、斜めの画が支え合って構成されているように、
私たちは周りの人の見えない力によって支えられています。
しかし経営者自身が支えられていることに全く気づかず、
“オレがオレが…”を必死で続けていたわけです。

“おかげさま”は「陽」の人物が「陰」の存在を敬う意味もあります。
「陽」の経営者が、幹部や現場の社員に感謝の気持ちを伝えたり、
家庭を守る配偶者や家族への感謝を生み出す源泉になります。
“おかげさま”は新たな感情を生みだす呪文にもなるのです。

陽が活躍するには 陰の力が不可欠である

~龍は雲を呼び、恵みの雨を降らせて万物を養う~
“陽”である龍が、雨を降らせる雲を呼びこむが、
実際に雨を降らせるのは“陰”の役割である雲であり、
万能の龍が活躍できるのは、陰の力に依るところが大きい。

経営者の能力も一人で開発し発揮されるわけではありません。
卓越した技術を持っていた本田宗一郎が活躍した背景に、
副社長として経営面を支えた藤沢武夫がいたように、
お互いが補完できるような関係を続けたからです。

これは「いい人と巡り合った」「運がよかった」といった話ではなく、
自分の弱点を補ってくれる相手の、優れた長所を見つけだし、
その長所が存分に発揮できるように努力を重ねた結果です。

事業を発展させ、天空を舞う飛龍のように活躍した経営者が、
いつまでも権限を握ったまま後進に譲らない例があります。
先頭に立つ“陽”の魅力に取り憑かれてしまったのか、
後方から支える“陰”の価値をご存じないのは…惜しい。

私事の話に戻りますが、当時の危機を一緒に乗り越えた若手が、
今では後継者・幹部として素晴らしい活躍をしています。
あの時の危機があったからこそ、と感謝に堪えません。
家庭生活では、長らく陰の存在を軽く考えておりましたが、
今は家事にも精魂を込め、陰と陽が逆転したような毎日です。

陰の力を消極的で弱いものだと考えるのは誤りです。
「雨降って 地固まる」「禍を転じて 福と為す」など、
日本には陰と陽の関係を好転させる諺が山ほどあります。
理想の状態を実現するには、陰の力があってこそ…なのです。

人口が減少し、賃金水準も後退した日本は陰の時代のド真ん中。
陰の時代があったからこそ、と後々に語れる充実した龍の年にしたい。

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