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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

観の目 つよく

2024年05月

~ フィルターバブル ~
ユーザーが見たくない情報を遮断する機能(フィルター)によって、
自分が関心を寄せる情報の“泡”(バブル)に包まれてしまい、
反対側にあるはずの情報が見えなくなる現象をいいます。

SNSも自分が気に入らなければフォローをやめ、
気に入った人だけをフォローする、という世界です。
こんな状態が続くと、違う考えの人との接点がなくなり、
視野の狭い人間を生み出すことにならないかと懸念されます。

昔ながらの紙の新聞やテレビと違って、
ネットでは見たくない情報は目に触れません。
最近ではフェイクな情報も入り混じっているため、
正しくて有益な情報を見極めるのが難しくなっています。

ウェブ会議の席上、生成AIで作られた偽者の上司から、
「数十億円ここに振り込んでおいて」と指示されて振り込むと、
それが詐欺だったという、なりすまし事件が海外で発生しています。
事件の真相は不明ですが、違う情報で確認できたら防げたかも知れません。

新聞やテレビといった旧来のマスメディアから離れ、
ネットでの情報収集が当たり前になったZ世代の人たち。
デジタルリテラシーが高く、新しい時代を担う先駆者なのに、
彼らが活躍する土台そのものが、危うくなっているのは残念です。

だまされる”ということも一つの罪である

現大ヒット映画を連発させた 伊丹十三監督の父 伊丹万作さんが、
戦後まもない時に「戦争責任者の問題」という著述を残しています。

 「多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。<中略>
 つまり、日本人全体が夢中になって、お互いにだましたり、
 だまされたりしていたのだろうと思う」

そして、だます者だけでは戦争は起こらない。
だます者とだまされる者とが揃って戦争は起こる、とした上で、
被害者である国民に対して厳しく反省を促しました。

 「“だまされる”ということもまた一つの罪であり、
 昔から決して威張っていいこととはされていない。
 “だまされていた”といって平気でいられる国民なら、
 おそらく今後も、何度でもだまされるだろう」

太平洋戦争中、公式な戦況報告とされていた『大本営発表』。
ラジオから流れるその情報は、初期は概ね正確だったようですが、
戦況の悪化と共に、実態とかけ離れた虚偽の内容に歪められました。
重要な情報が遮断されていたわけで、今のフィルターバブルに似ています。

終戦後、戦争責任者が裁かれ幕引きが行われましたが、
国民が厳しい状況に置かれた原因についてこう語っています。

 「“だまされる”のは、もちろん知識の不足もあるが、
 半分は信念、すなわち意志の薄弱からくるのである」

中小企業の経営者は企業という小社会を預かっています。
偽情報で経営判断を誤るようなことがあってはならないし、
相手にその気がなくても、誤った提案がされる場合もあります。
私たちは玉石混交な情報の中でベストな判断をしなくてはなりません。

観の目つよく 見の目よわく

宅急便という小口物流市場を創造した、当時のヤマト運輸の小倉昌男社長は、
事業を始める際にコンサルタントに依頼して宅配便の将来性を調べました。
綿密に調査された結論は、「採算性は取れません」のNGでしたが、
小倉社長はその提案には従わず、新市場開拓に挑戦しました。

条件さえ整えば、市場は必ず成長するという確信があったのか、
無難な結論しか提案しないコンサルタントが信用できなかったのか、
真意は不明ですが、調査結果に対し「それは違う」と感じたようです。
小倉社長は専門家の細かな分析より、直観のようなものを優先したのです。

剣豪 宮本武蔵が剣術の奥義をまとめた『五輪書』に、
目には 「観」と「見」があると記されています。
現代語に訳すとこのような意味になります。

 「目には 観の目と 見の目とがあるが、
 観の目をつよくして、見の目はよわくする。
 遠き所を近く見て、近き所を遠く見る事が肝要である」

観の目とは、心の目で全体を観て、
見の目とは、自分の目で局所を見ること。
つまり、全体を見る観の目(心の目)を強くし、
局所を見る、見の目(自分の目)は弱くせよという。

そして武蔵は、眼前の課題を解決するために、
“遠き所を近く見て、近き所を遠く見よ”という。
遠い将来ビジョンを意識して、目の前の課題に集中し、
身近な問題に心を奪われてはならない、ということでしょう。

座禅の時に教わった話を思い出しました。
「お釈迦様や観音様のように『目は半眼』にせよ。
うす目を開け、一点を見つめておれば全体が視界に収まってくる」
心を奪われずに集中できる方法が、身近なところにあったのです。

悪をコントロールする もう一人の自分を育てる

経営者が誰かに騙されるようなことがあってはならないし、
ましてや、人を騙すようなことはありえません。
ところが、経験豊富な熟練経営者の間で、
昔から語られてきた言葉があります。

~ 経営者として大成する人間は、
悪いことができるが、悪いことをしない人間である ~
これは、自分の中に「悪人」と呼ぶべき人格がありながら、
その悪を制御する「もう一つの人格」があることを語っています。

「悪いことができる人格」が自分の中にあるからこそ、
騙す人間の心境を察知し、騙されることを防ぐことができる。
だからこそ、自分の中にいる「悪」と呼ぶべき存在を認めつつ、
その悪を制御できる、もう一人の自分を育てることが大切なのです。

さて、若い人が紙の新聞やテレビを見なくなっている話ですが、
全国紙の五大新聞でも政治面で保守派と反保守派に分かれています。
偏った読み方を続けていると、正しい判断をするのは難しいでしょう。
問題はネットや新聞などの媒体ではなく、自分自身の心の目にあるのです。

今も世界で起こっている戦争に心を痛めますが、
国内で報道される世界情報にも偏りを感じています。
世界的な影響力をもった勢力に誘導されているのでしょうか、
遠い宇宙から地球全体を観る“観の目”が必要なのかも知れません。

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