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バイマンスリーワーズBimonthly Words

君子豹変す

2018年11月

世界で最も自然災害が多い国といわれる日本。
そんな悪評を裏付けるような天災が連続しました。
猛暑が続いたところに関西と北海道で発生した大地震、
大雨による洪水と土砂崩れ、そして連続して襲った大型台風。

人手不足で困っている最中に起こった今回の災害。
建設・土木、電気、水道、ガス、医療、生活用品など、
本業が地域のインフラに関わる企業は多忙を極めたでしょう。
地域の人々はあなたの会社の価値を再認識されたに違いありません。

経済の破たんは、ある意味で自然災害より恐ろしい。
失業者が溢れ、モノが不足し、治安が乱れる。
企業の倒産は、社員を路頭に迷わせ、
取引先にも大きな打撃を与えます。

企業は地域社会から様々な支援を要請されます。
それは寄付行為や、奉仕団体との活動になりますが、
何よりも自社を倒産させないように経営基盤を安定させ、
本業を通じて社会に貢献することが本来の姿ではないか…。

今から約二百年前の江戸時代後期に、
災害によって荒れ果てた農地を復興させ、
多くの村々や藩家の財政再建に全力を尽くし、
まさに二刀流の活躍で地域貢献をした人がいました。

「自分のため」から「人のため」へと進化する

~ 道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である ~(二宮尊徳)
農政家として活動し、財政の指導者でもあった 二宮尊徳(金次郎)。
小田原を始め、全国六百の農村を復興させた名指導者ですが、
若くから立派な人格を備えていたわけではありません。

七代目の子孫となる 中桐万里子氏によれば、
「若い頃の尊徳は、私欲にまみれていた」という。

尊徳が32歳で村二番目の大地主になった理由はこうです。
当時の小田原は富士山の噴火などで、農地は荒れ放題の状態。
そんな土地を安く買い、必死でその荒地に向き合って研究を重ね、
実りある豊かな土地に復活させた上で、高値で売ることに成功。
その資金でより大きな荒地を買い、倍々ゲームで財産を残しました。

若い尊徳の動機は「世のため、人のため」ではなかった。
両親を亡くし、財産を失くした自分が生きるのに精一杯であり、
「自分のため、自分の財産を残すため」が仕事に打ち込む動機でした。
その証拠に、当時は極めて贅沢な「お伊勢参り」を二度も経験し、
コメ相場にも手を出していますが、これは失敗しています。

ところが、あることをきっかけに人格がガラッと変わります。
尊徳の実績に対して、小田原藩主であった大久保家の殿様から、
「村の再建によく力を尽くしてくれた」と、表彰を授かったのです。

荒地を豊かな土地にしたのは、自分が儲けるためだった。
ところが殿様が暗に諭したのか、尊徳に「志」が芽生えます。
「この主君のために尽くそう」と”忠義の心”を抱くようになり、
その後、「世のため、人のため」という生き方に方向転換するのです。

その自信こそが「慢心」の正体だった

~ 君子豹変す 小人は面を革(あらた)む ~(易経)
「君子は自分が誤っていることに気づけば、
秋に豹の毛が抜けて紋様が鮮やかになるように、
心を入れ替え、スッキリした心持ちで変身ができる。
ところが、小人は心にもないのに顔つきだけを改めるものだ」

“君子豹変す”を「節操なく、変わり身が早い」
という良くない意味で使われるようだが、本来は違う。

誰にでもある人生の転換点。
そこで起こった問題に素直に向き合い、
自分自身が革新する必要性に気づいたなら、
心がリセットされ、新たなステージに上がります。

ところが優秀な人ほど、この簡単なことができない。
実績を残した人ほど他人の意見が聞けない。
それは、いったいなぜなのか…?

経営者は誰よりも勉強し、研究し、努力する必要があります。
努力を続けると自信に満ちたリーダーシップが備わり、
自信に裏付けされた判断ができるようになります。
結果、業績も改善され新たな自信も湧いてくる。

ところが、自信は程度を過ぎると「慢心」を生み、
慢心は放っておくと「傲慢」にまで変質する。
ここまで来ると、他人の意見は耳に入らず、
問題が発生していることすら気づきません。

薬と毒の違いは「量」の違いにあるという。
適量ならば薬だが、大量に服用すると毒になる。
努力を重ねてきた自信は、大いに「薬」になるが、
度を過ぎた自信は、慢心という「毒」に変質するのです。

人は未来の可能性についてくる ~ 心の復興をしよう ~ 

尊徳は藩主の命により36歳で栃木県桜町の再建に赴くが、
7年間、農民たちの妨害を受け、成果が出なかった。
小田原で成功した方法を引っ提げての赴任だが、
新しい土地での指導はうまくいきません。

自然災害以上の大きな壁となった人間関係。
最後に選んだ方法は成田山での断食修行でした。
そこで傲慢な自分に気づき、そんな自分を捨て去ります。
二宮尊徳43歳、鮮やかな人生二度目の”自己革新”でした。

修行から戻るとスッキリ豹変していたのでしょう、
指導者としての非を認め、農民に謝罪をしたのです。
すると農民たちの協力が得られ、二年半で村の再建に成功。
心髄をつかんだその後は十年間で六百もの再建に貢献したのです。

~ 心の復興 ~
事業よりも、経済よりも重要な「心」の復興。
人は誰もが過去の功績を大切にしますが、
部下はリーダーの過去の栄光ではなく、
未来の可能性についてくるのです。

過去の実績や栄光は脱ぎ捨てよう。
失敗は引きずらずに、エイッと忘れよう。
溜まったものは出さないと心の中が便秘になる。
過去の自分は捨て去って、未来の自分を信じよう。

災害が発生するたびに何の貢献もできない自分に苛立ち、
本業である経営の支援で貢献したいと思っておりますが、
どの会社も複雑な問題を抱えており、容易ではありません。
せめて経営者の心の復興に貢献できないかと、祈り続けています。

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