バイマンスリーワーズBimonthly Words
和を以て貴しと為す 再び
新年あけましておめでとうございます。
本年もバイマンスリーワーズ、そして新経営サービスをよろしくお願いします。
まったく予断を許さない時代の幕開けとなりました。
トランプ現象は米国の富裕層と貧困層の分断を明らかにし、
イギリスのEU離脱、イタリアの国民投票も本質は同じ問題です。
その上にイスラム国によるテロ攻撃が、世界各地の紛争と絡んできます。
米国を中心に展開されてきたグローバル化に反発するように、
今はそれぞれの国が孤立する、ナショナリズムに傾いているようです。
国家や民族が異質なものに変化し、右か左かを多数決で分断される。
分断の先は、人類史上最悪の争いになる可能性を秘めています。
一方の日本では、多数決で線引きをするような考え方は根付きません。
入って来るものを拒まずに受け容れ、いつの間にか融合している。
何事も辛抱強く根回しをして調整する「全員一致主義」の国です。
断層をつくらず、平和的解決をめざす国民性はどうやって生まれたのか?
~和を以て貴しと為す~
聖徳太子によって日本で初めて制定された十七条憲法。
1400年前に制定されたその第一条には「和」の精神が貫かれています。
一般には『わをもって…』と読みますが、『やわらぎをもって』が正しい読み方。
第一条を端的に現代語訳するとこうです。
「ひとつ、やわらぎがいちばん大切である。争わないことが根本である。~ 中略 ~
上の者がやわらぎを旨とし、下の者も睦まじく論議をすれば、事は了解され、何事も成就できる」
和の思想は、チームワークを重視する日本企業の経営にも生かされました。
「家庭の和」こそが「会社の和」
まず日本の経営者は「会社の和」を大切にしました。
伊那食品工業の塚越寛会長は、「成長の限界」を念頭に置き、
無理をしないで確実に会社を成長させる「年輪経営」の実践者です。
人間尊重の日本型年功序列制度を貫いている塚越会長はこう語ります。
「人は年齢と共に体験を積み、経験に左右される事のほうが多い。
若い社員も結婚して子供ができると教育費がかかり住宅ローンも始まる。
そこで世間並みに幸せに暮らし、次世代の子供を生みはぐくむ家庭を営む上で、
年齢と共に賃金が上がる年功序列型は、長期的な視点で見れば日本を健全に永続させる」
年功序列といっても、もちろん抜擢人事は行います。
その上で、社員がお互いの生活を助け合う仕組みになっている。
年功序列も、終身雇用も、雇用は安定するが経営面でのリスクは大きい。
和を大切にする経営は、まず経営者自身がリスクを負うことから始まるのです。
雇用の安定は「家庭の和」につながります。
和を重んずる方針に家族も安心、というわけです。
ところが、肝心の経営者自身が家庭を疎かにしやすい。
「社長の仕事は大変なんだから、家のことはやって欲しい」
こんな心情になりがちですが、甘く見ていると足元をすくわれます。
家庭の中には、複雑に絡み合った難しい問題が多い。
夫婦の問題、子供の問題、親や親戚、地域社会の問題など、
切るに切れない柵を抱えながらも、そこをガマンで解決する。
経営者の修行は、家庭生活という身近なところでも続いているのです。
家庭の問題を放ったらかしにしていると、いずれ自分に返ってきます。
会社の運営もちょっと気を抜くと社員はバラバラになってしまう。
では、家庭の和や会社の和の根本の「和」とはいったい何か?
経営者は目的を見失ってはならない ~ 目標は柔軟に変更すればいい ~
経営者の心の中が迷い、乱れていては何も始まりません。
心の乱れは家庭を乱し、家庭の乱れは経営にも影響します。
会社や家庭を論じる前に、心の中の「和(やわらぎ)」はどうなのでしょう。
そう、一人ひとりの「心中の和」があってこそ、人と人との調和ができる。
経営者の心の中は判断に迷うことが日常茶飯事に起こります。
積極的に打って出るのか、ガッチリ守りに徹するか…。
厳しい態度で接するか、柔和な姿勢を維持するか?
心の中は、表と裏を行ったり来たりの繰り返し。
自己顕示欲の塊のような人間だった自分が、
失敗続きで自信をなくし、今はすっかり自己嫌悪。
ここで挫折してなるものかと自立心を奮い立たせるが、
何かに頼りたくてしかたない弱い自分が心の底に横たわる…。
迷うばかりでは社員の心が離れていくのは分かっています。
自分は家族を養うこともできないのかと落ち込みます。
会社の業績も思うように上がらない現実を前にして、
どうすれば「心中の和」を保つことができるのか…。
人間尊重の塚越会長のところにはトヨタ自動車の社長を始め、
国内外から大企業の経営幹部が、「年輪経営」の極意を求めてやってきます。
「会社の目的は『人を幸せにすること』に尽きる。ところが、会社の目的は業績を上げることだ、
と勘違いしている人がほとんどだ。~ これだけ世界中の経営者から共感を得ているのも、
人を幸せにするという会社の目的が、万国共通の真理だからだと思う」と言い切ります。
たしかに業績を上げることは手段であって目的ではない。
途中で経営環境が変わったら、目標は柔軟に変更すればいい。
だからこそ経営者は、自分自身で見出した目的を見失ってはいけない。
目的さえしっかりしていれば、迷いも乱れもない、経営道が開けることでしょう。
平和こそが国家運営の目的
12年前の酉年の正月、小紙のテーマは「和を以て貴しと為す」でした。
世界情勢が大きく変わった今年、皆様へのメッセージを思い直すと、
一人の人間としてこの言葉を再度かみしめる必要性を感じ、
もう一度このテーマに登場してもらった次第です。
多くの日本人は、年末にはクリスマス、
大晦日にはお寺の除夜の鐘を聞きながら、
年が明けると神社に初詣をして新年を祝います。
なんと宗教に無節操な国民なのかと批判もされました。
かたよらず、とらわれず、異質のものを融合させる「和」のこころ。
こだわらずに受け容れるこの国民性は新たな世界で輝きを増すでしょう。
人類とAI(人工知能)との共存も目の前の重要なテーマになっています。
しかし、そこには決してゆずってはならない、変えてはならないことがある。
企業は顧客の要望で商品やサービスを変えますが、
“顧客の要望を聞く”という姿勢を変えてはなりません。
会社の目的が万国共通で「人を幸せにすること」であるならば、
人が幸せに生きるには「平和」が大前提であることを、忘れてはいけません。
国家の運営においても同じこと。
憲法の条文は時代に合わせて変えてもいい。
しかし、国家運営の根本精神を変えてはならない。
~ 和を以て貴しと為す ~
日本人の心の底には永遠に変わらない憲法が厳然と存在しています。
軍事、経済などあらゆる面で米国への従属を続けてきた日本。
トランプ体制は戦争国家から回避するチャンスなのかも知れませんが、
米中の対立、米ロの対立、その間に立つ日本の動きが平和のカギとなるでしょう。
中小企業も世界情勢に影響される昨今、どんな事態にも対応できる準備をしておきたい。