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バイマンスリーワーズBimonthly Words

天を相手にせよ

2016年03月

あきらかに国の経済政策はおかしい。
国民の将来を支える年金資金を株式投資に廻し、
日銀のマイナス金利政策で無理にでも金を使わそうとする。
それは、末期症状の患者に劇薬を打って延命させるようなものです。

デフレは”死”に至る病といわれます。
重篤な状態の国家経済にどんな特効薬を打っても、
ドッカーン! と火山の大噴火のような変化が起きない限り、
過去の「負」を清算し、日本経済が生まれ変わることはできません。

そう遠くない将来に経済的な大変動がやってきます。
目前のことで精一杯なのに、大ピンチを乗り切れるのか…。
ここで重要なことは、その後に新たなスタートが切れるかどうか。
大変動が来た時、私たちは何を”縁(よすが)”に経営すればいいのでしょうか。

どんな組織であれ、いつか革命的な変化が起こります。
「革命」とは、政治的な体制変化だけをいうのではありません。
産業革命、情報革命にもみられるように「権力の移行」を意味します。
企業組織の革命とは、権力者つまり経営トップが交代するときになります。

「無血開城」を実現させた明治維新の政治革命はみごとです。
しかし、企業の世代交代は、親子であってもイザコザが絶えず、
M&Aで会社を売るにも、相手探しから交渉まで、それは大変です。
すべての会社に訪れるトップ交代問題は、簡単なことではありません。

根本的な改革をしたいならピンチはチャンスです。
時代の流れに沿ったこんな会社にしたい、と考えているが、
従来の権力構造や制度の壁に阻まれ、一向に進まない会社が多い。
改革をしたくても実行できない会社にとっては、大変動はチャンスです。

ひたすら 天の声を「待つ」

内村鑑三は日清・日露の戦争の後に、『代表的日本人』を執筆しました。
西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の生涯を通して、
日本人が日本の文化や思想を英語で西欧に紹介した名著です。
内村は同時代を生きた西郷隆盛をあえて一番に挙げています。

西郷は「江戸無血開城」の立役者ですが、その生涯は逆境の連続。
藩主の急死で奄美大島に流され、復帰後、また沖永良部島への流罪に遭う。
倒幕運動の中心となり、廃藩置県などの改革を進めたが西南戦争で惜しくも自刃。
それは変動期に起こった対立関係に、軍人として、政治家として苦しんだ人生でした。

この著書の中で、内村は西郷の人柄についてこう紹介しています。
「西郷は人の平穏な暮らしを、決してかき乱そうとはしませんでした。
人の家を訪問することはよくありましたが、中の方へ声をかけようとはせず、
入り口に立ったまま、誰かが偶然出て来て自分を見つけてくれるまで待っているのでした」

「西郷は『待つこと』によって、誰かが自分を見つけてくれると信じていたのです。
この『誰か』とは『天』のことであり、真心をこめて接しなければならず、
『待つこと』は、積極的に行うことに勝るとも劣らない価値がある」
(NHKテレビテキスト 『代表的日本人』よりの要旨)

事業は「何をやるか」よりも「誰がやるか」が重要です。
家具販売を展開する会社の経営権に絡むお家騒動ではないが、
いまだ影響力のある先代社長との関係に苦しむ若きリーダーも多い。
そんな権力闘争の渦に巻き込まれた社員は、たまったものではありません。

経営権を引き継ぐ人は、功をあせってはなりません。
まして自分から権力を求めるなんてもってのほかである。
二度や三度の逆境で根をあげるようでは、本番では務まらない。
じっくり力を蓄えながら、ひたすら「天の声」が降る時を待てばいい。

"目の前の人間"を相手にすると ややこしくなる

『代表的日本人』の五人に共通するのは、
どんな逆境でも正面から受け止め、立ち向かう勇気でした。
それは、内村の講演録『後世への最大遺物』でも語っています。

「後世へ遺すべきものは、お金、事業、思想もあるが、
誰にでもできる最大遺物とは”高尚なる勇ましい生涯”である。
それは、~ 中略 ~ この世の中は失望でなく、希望の世の中である。
悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世の中である、という考えを生涯に実行し、
その生涯を世の中への贈り物としてこの世を去ることであります」

経営者は人生をかけて事業を発展させてきました。
そんな可愛い会社を、勝手にいじられては我慢できません。
不満の溜まったトップと、改革意欲満々の後継者がぶつかる…。
そして、お互いが怨霊に取り憑かれたように心が相手に支配されていく。

西郷はいう。
「人を相手にせず、天を相手にせよ。
天を相手にして、己を尽くして人をとがめず、
わが誠の足らざるを尋(たず)ぬべし」

目の前の人間を相手にするのではなく、
いつも「天」を相手として物事を考え実行しなさい。
天を常に意識し、自分の全力を尽くし、人の欠点をとがめない。
ひたすらに自分の誠実さが足りなかったかどうかを自分に問いかけなさい。

目の前の人が自分に逆らっていると考えると腹が立つ。
しかし、その人は私の成長のために「天」が遣(つか)わしたのだ…、
と考えると、怨霊だったその人は次の瞬間から感謝の対象に転化する。
「敬天愛人」を座右の銘とした西郷は”高尚なる生き方”を私たちに遺(のこ)しました。

逆境は「天」が与えている

人間はいつ死ぬかわかりません。
だからこそ、いざという時に経営を任せ、
バトンタッチできる人物を育成しておかねばならない。
これが公器である企業を預かる、公人としての社長の責務です。

しかし一方で、まだやりたいことがあるなら無理な引退はしない方がいい。
経営者が引退を決意するカギは「次なる目標は何か」に尽きます。
目標を見失った人間はヒマになり、ろくなことをしません。
形だけの交代なら本当にやりたいことを続ける方がいい。

逆境は「天」が与えます。
経営トップにも、後継経営者にも、
天は試練を課し、逆境に追い込んでいく。
そして、試練に耐え、乗り越えてきたあなたに、
“高尚なる勇ましい生涯”を与えてくれるでしょう。

東日本大震災から五年になろうとしています。
他に優先されることが多いのか、復興の足取りは重い。
虎の子の資金を投資に廻すのは、資金が海外に流れるだけ。
国内にこそ地に足の着いたお金の使い道があるではないか…。

米国による”押しつけ”だ、との批判を受ける日本の平和憲法。
しかし、それは米国という国を通して「天」が与えた、
“高尚なる勇ましい憲法”とは、言えないだろうか。
今年の夏、「天の声」の真意が明らかになることでしょう。

内村鑑三は、1903年に「戦争廃止論」を発表し、
どんな理由があっても戦争を認めることはできないと主張。
しかし、「天の声」は時代の指導者に届かず、愚かな戦争をくり返す…。
私たちは今こそ、世界平和に貢献する”高尚なる勇ましい国民”でありたい。

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