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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

有り難い人生

2012年01月

新年のご挨拶を申し上げます。
本年も新経営サービス、そしてバイマンスリーワーズをよろしくお願いします。

「日本が敗戦からこんなに早く復興できた秘密は何ですか?」
こんなケネディ米大統領の質問に、大平正芳外相(のちの首相)がこう答えました。
「それは日本が災害の多い国だからです。」
怪訝な顔をする大統領に対し大平氏は、
「日本人は、耐えて、克服し、災害前より日本を良くするんだという気概を持って生きてきました。
この力こそが復興の原動力なのです」と語ったという。

昨年は東日本大震災、台風被害、タイの洪水、と天災被害に明け暮れました。
そこへ原発問題が重くのしかかり、私達に与えられた復興への道のりは果てしなく遠い。
幾多の困難を乗り越え、今の日本を築いてこられた先人の智慧と忍耐力。
日本が誇る復興への原動力は、どうやって培われたのでしょうか…。

身体の重心は地球の核とつながっている

「物の重さが宇宙へ行く前の感覚の2倍くらいに感じる」
宇宙に165日間連続滞在し、帰還した古川聡さんの言葉です。
私たちは普段、自分に重力がかかっていることに気づいていませんが、
無重力から1Gの重力の地球に戻ると、携帯電話でさえ非常に重く感じるという。

もう一つ、古川さんは気づきを与えてくれました。
「身体の重心がどこだか全くわからず、立っていられない、歩けない…」
なるほど… 私たちは普段、身体に重心があることを意識しませんが、
重心がなければ、何もできないことを教わりました。

能楽師の安田 登氏は、
人が何かをするには地球の中心とつながる「コア意識」が重要だという。
地球上のすべての存在は重力を受けるため、重力の中心、つまり「重心」をもっている。
人の身体の重心は、イメージとしては「胃」のあたりかと思われますが、
じつは、臍の下あたりの「丹田」と呼ばれる位置にあります。

丹田にある自分のコア(重心)は、地球のコア(核)とつながり、
一本の直線(重力線と呼ぶ)を引くことができる、と安田氏はいう。
自分の重心と地球の重心を意識することを「コア意識をもつ」といい、
重心の意識が高めになると、腰が浮いた状態になってしまいます。

コア意識がしっかりすると心が落ち着き、腹が据わってきます。
腹が据わると、逆に自由に変化させることも可能になります。
自転車に乗る時、コア意識を細くイメージすれば、速く楽に走ることができ、
格闘技などでは、これを太くイメージすれば簡単に倒されないという。

大リーグ・松井秀喜選手が骨折で絶望視されながら復帰を果たしたのは、
両ひざを外側に開き、重心を低くする「低重心打法」へのフォーム改造でした。
「どうすれば大地から巨大なエネルギーを取り込むことができるか?」
骨折による力不足を補うために、悩んだ末にたどり着いた答えです。

「縄でぶら下げられた状態で振ってもバットに力は伝わらない。足が使えるから、
初めてパワーが出る。地面からパワーをもらってる、ということですよ」
地球のエネルギーは、両足、体幹、両手、そしてバットを通してボールに伝えられる。
松井選手は重心を低くして地球の中心からパワーを引き出し、復活を果たしました。

困難こそが成長を促す源泉

長期不況、災害被害など低迷続きでしたが、多くの企業が復活に向かっています。
ここで全社員のパワーを結集させて、組織に勢いをつけたいところです。
ところが、重心となるリーダーがふらついている組織も少なくありません。

新たな一歩が踏み出せず、悶々としている経営者がやっぱりいます。
経営者になれるかどうかと悩み続け、未だに腹の決まらない後継者もいます。
また、部門のリーダーを任されながら、いつまでも雇われ根性の抜けない人もいる。
これではせっかくの才能も活かされず、組織は崩壊に向かうでしょう。

~ 力足らざる者は、中道にして廃す。今女(なんじ)は画(かぎ)れり。~
孔子の弟子が、
「先生の教える道徳は素晴らしいが、私には実力がないので実践できない」と嘆くと、
孔子が応えます。
「力が足りないなら、行ける所まで行ってそこで力尽きるはず。お前は始める前から投げている」
困難を前にしてできない理由を探している弟子に対し、
自分の可能性を、自分で見限ってはならない、と勇気づけています。

孔子の人生は困難の連続で、晩年の50歳代に国を追われ、放浪の身になります。
60歳代の半ばに帰国しますが、子供や弟子をなくす不幸が続きました。
しかし、困難に怯むことなくプラス思考で己を磨いた人でした。

困難の無い人生は、無難な人生
困難の有る人生は、有り難い人生 (ひすいこたろう著「漢字セラピー-五つ星のしあわせ」より)

苦労や困難からの”逃げ癖”がついたら、なかなか直らない。
落ち込んだ時はとことん落ちて、地に足をつけてから浮上すればいい。
苦労こそが自分の人格を形成する人生の師であり、
困難こそが飛躍的な成長を促す源泉なのです。

思想の重心は自分で鍛え上げる

身体の重心が丹田ならば、思想の重心はどこにあるのか?
普段、私たちは人の話や読書によって生きるヒントを探ろうとします。
作家の一条真也氏は、著者の思想の源流をたどる「DNAリーディング」を勧めます。

たとえば経営者の稲盛和夫氏の本には松下幸之助がよく登場する。
その松下幸之助は渋沢栄一の影響を受け、
渋沢栄一は石門心学の開祖・石田梅岩の影響を、
石田梅岩は儒教の影響を受けて、最後は孔子にたどりつくという。

読書は著者との対話であり、多くの人から教えを乞うことができます。
しかし、どれほど価値ある教えでも、そこに頼ってはなりません。
自分を支える思想の重心は、自分で鍛え上げるしかないのです。
倒産寸前の危機、組織の軋轢、信頼する人との別れなど、
辛い、苦しい、悲しい体験があなたの重心を鍛えてくれます。

人は人生に迷い、進むべき方向を探るため、思想の縁(よすが)を求めて生きています。
リーダーには、心の奥底で重心となるブレない思想と、
周りの状況によって変化させる柔軟な発想が必要になるでしょう。
まさに「不易流行」の考え方です。

福島県会津地方に古くから伝わる「起き上がり小法師」。
底に重りを入れることで何度倒しても起き上がる、七転び八起きです。
日本が誇る復興力の謎は、腹の底で受け止めて周りの動きに反応する、
起き上がり小法師に秘められているのかも知れません。

復興のための増税が決定しました。
それは重き荷物を背負いながらの遠い道のり。
重い、低い、難しい…これらの言葉はあまりいい響きではありません。
でも、「重いからやりがいがある」「低いから安定する」
そして「難しいから成長する…」
そんな前向きな言葉にしていきましょう。

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