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バイマンスリーワーズBimonthly Words

精力善用 自他共栄

2020年01月

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2020東京オリンピックの年が明けました。
ある専門機関によると、日本が獲得するメダル数は、
金が29個、メダル総数で67個と過去最多の予想です。
種目別で最も多いのが“お家芸”の柔道で、金12個です。

じつはこの柔道、前回のリオでも男子7個、女子5個と健闘しましたが、
前々回のロンドンでは男子の金メダルがゼロ、という屈辱を味わい、
柔道発祥の国としての威信が完全に失われていたのです。

そこで復活をめざして指導者に就いたのが井上康生監督。
自身もシドニーで金メダルを獲得した名選手でしたが、
監督として初めて挑んだ大舞台で全階級のメダルを獲得。
外国勢に押されていた男子柔道の復活をみごとに果たしました。

日本の武道である柔道は、今や世界の“JUDO”になり、
国際ルールの変更に伴って各国が目指す柔道も変わっています。
ロシアのサンボ、モンゴルのモンゴル相撲など各国にも格闘技があり、
その格闘技の上に柔道が重なり、その複合体が今の“JUDO”の姿です。

井上監督はこう語ります。
「武道としての柔道と、スポーツ化されたJUDOは別物であり、
我々はJUDOを目指す必要はありません。
されど、世界と戦って勝つにはJUDOを研究し、知ることが必要で、
我々は柔道の本質、心を見失わずにJUDOとの戦いに挑んでいかねばなりません」

ひとつの技に満足していたら 勝ち続けることはできない

男子柔道の姿は中小企業の経営と似ています。
国内だけで同業他社と競争をしていた中小企業は、
商品やサービスの差別化を図ることで充分に戦えました。
ところが今や、中小企業にも国際的な対応が求められており、
また、AI(人工知能)などの高度な技術への対応も欠かせません。

今、日本のGDPは米国・中国についで第3位ながら、
国民1人当たりのGDPは、世界26位と低迷しています。
その原因は少子高齢化による労働力人口の減少もありますが、
99.7%を占める中小企業の生産性が低いままであることが大きい。

その姿はロンドンで大敗した男子柔道と重なります。
市場の国際化が進み、世界は急速に発展していましたが、
日本の中小企業の多くは、旧来の経営手法から脱却できず、
国際競争力を失って、“ついに失われた30年”となりました。

中小企業低迷の原因は経営者の年齢にも表れています。
95年の平均年齢は47歳でしたが、今はなんと69歳。
後継者不在という問題もありますが、22歳も上昇しています。
過去に成功した老練の手法だけで、新しい時代を乗り切るのは難しい。

「私は一撃必殺の“内股”を持っていたがそれだけでは勝てない。
ひとつの技だけに満足していたら勝ち続ける選手にはなれない」
復活を遂げた井上監督の言葉は、私たち経営者の耳にも痛く響きます。
~ 柔道の本質、心を見失わずにJUDOとの戦いに挑む ~
若き指導者がこう語る、“柔道の本質”とはいったい何なのか?

最悪を想定した ネガティビストになれ

~ 精力善用 自他共栄 ~
「心身の持つ力を最大限に発揮し、社会のために善く用いよ。
そして相手を敬い、感謝し、自分だけでなく他と共に栄える世の中にせよ」
講道館柔道の創始者 嘉納治五郎の理念であり、柔道の本質です。

柔道の本質は、治五郎も学んだ“柔術”と対比するとわかりやすい。
昔からあった柔術は、戦場で相手に勝つことが目的でした。
しかし、柔術の向かう方向に限界を感じた治五郎は、
心身を鍛え、社会に役立つ人間作りをめざしたのです。
これが人間形成を目的とした“講道館柔道”の始まりです。

井上監督の内側には、この精神が脈々と受け継がれています。
指導方針にぶれはなく、試合に向かう選手たちにこう語ります。
「準備の段階では常に最悪の状況を想定した“ネガティビスト”になれ。
試合の当日はやるべきことは全てやったという“ポジティビスト”であれ!」

オリンピックの建設関連特需はすでにピークを越えています。
あとは本番と前後に発生する需要のみで、その反動が恐ろしい。
米中経済戦争がより深刻な事態になれば、日本はもろに影響を受け、
自社株買いと日銀の資金で支えている株価はいつ暴落してもおかしくない。

昨年NHKが特集を組んだ“首都直下の大地震”は、
30年以内に70%の確率で発生するといわれている。
南海トラフでは死者32万人、経済被害220兆円と試算され、
備えに乏しい中小企業などは、あっという間に吹き飛んでしまう。

世の中は何が起こるかわかりません。
順風満帆で勝ち続けてきた企業であっても、
急に厳しい局面がやってきて、負けることもあります。
今年起こるかも知れない最悪の事態を無視することはできません。

柔術から柔道へ 経営術から経営道へ

柔術も柔道もその稽古は「受け身」から入ります。
つまり、初めに“負ける稽古”をするわけです。
治五郎が若い頃、柔術の先生に投げられながら考えたという。
「柔術は勝つための術であったかも知れない。
しかし、現実は負ける。負けることの方が多いかも知れない…」

私は、少しでも売上が上がり、利益が出ることを願って、
様々な企業のお手伝いをしてきましたが … 負けも多かった。
そこで悟ったことは、勝つための“経営術”を覚えるのではなく、
負けても目的に向かって立ち上がる、“経営道”を目指すことでした。

近年はあらゆるスポーツで“世界ランキング”が行われていますが、
高いランクの選手が品位に欠ける言動をするのは見るに忍びない。
ドーピングなどの卑怯な方法が国家レベルで行われているのも、
目先の勝利を追い求める商業主義が生んだ結果でしょう。

私たちも目先の売上や利益にとらわれていないだろうか…。
経営の目的に向かって、「精力善用」で歩み続ける“経営道”。
“経営の目的”とは一人ひとりの心の奥に備わっているもので、
悩み、苦しんで、自ら悟るものであり、誰も教えてはくれません。

女子がスポーツをするなど“もってのほか”と言われた時代に、
「体力のない女子の柔軟さの中にこそ、真の柔道が受け継がれる」
として女子にも入門を許し、講道館に女子部を置いた治五郎。
女子柔道も「柔道の父」の温かい懐の中で育ったのです。

柔道の目的について治五郎は、悩み、苦しんで獲得しました。
この理念が世界の国々で支持され、柔道をはじめとして、
オリンピック、そしてパラリンピックの発展に貢献。
「自他共栄」の精神が幅広く浸透したことに、
治五郎もさぞかし喜んでいることでしょう。

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