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株式会社新経営サービス

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バイマンスリーワーズBimonthly Words

予断を持たない

2020年05月

「まさか これほどの事態になろうとは…」
当初は中国人観光客の減少ぐらいかと思っていたら、
あっという間に製造、小売、飲食、サービス業などに広がり、
今は大企業の資金繰りに影響が出るほどの危機に直面しています。

中小の商店ではギリギリの状態で、倒産・廃業の店も少なくない。
もう神頼みしかないのか… こんな心境も漂うコロナ危機。
“経営の神様”は私たちに何をせよ、というのか?

まずは「手元に充分なキャッシュを用意しておけ」といっています。
収入が絶たれ、給料も払えないとなれば回復の目途も立たず、
将来に向けた新しいアクションなど起こせるはずもない。
あのトヨタでさえ1兆円もの融資枠を設定したというから、
経営とは規模ではなく、バランスであることがよくわかります。

二つ目には「何ごとも偏ってはならない」という。
インバウンド客に絞っていた観光関連ビジネスや、
大口の団体客に偏っていたサービス業などは一挙に失速。
まして2~3社の下請けをする中小企業はひとたまりもない。

生産面や流通面のサプライチェーンの偏りも危険です。
大半を中国部品に頼っていた事業は一挙に機能不全に陥った。
それはミツバチがいなくなり、生態系全体に異変が起こったように、
末端の世界市場に大打撃を与える現象が、現実に起こりました。

コロナ戦争の後に 何が起こるか?

三つ目としては、「もし○○が起こったらどうするか?を準備せよ」ともいう。
具体的にはBCP(Business Continuity Plan「事業継続計画」)と呼ばれ、
災害やテロ、システム障害や不祥事といった不測の事態に置かれても、
重要な業務が継続できる方法を事前に取り決めておくことです。

弊社でも今年から新しい社長体制がスタートしましたが、
コロナショックでその船出は大変厳しいものになりました。
しかし、刻々と変化する情勢に先んじた行動指針を次々と発令し、
国などから方針が出る前に、様々な事態を想定した準備を行っています。

さきの戦争について経済的な側面から捉えておきましょう。
日本では戦艦大和など大量の武器兵器が必要になりましたが、
その財源は国債などの借金で賄い、国家財政の9倍に膨らみます。
そして武器兵器は資産として残らず、海底に消え失せましたが、
莫大な借金と軍人への退職金支払いだけが残されました。

なんと恐ろしい… 今とよく似た経済状況ではないか。
8年連続で過去最大を更新している国家予算102兆円の上に、
多かれ少なかれ、コロナ対策に108兆円の追加予算が必要となった。
1千兆円を超える負債を抱えて、また借金を重ねるこの国はどうなるのか?

終戦後の日本で待っていたのはハイパーインフレでした。
政府は預金封鎖を断行し、物価安定に努めたがインフレが発生。
なんと終戦から3年6カ月で消費者物価は100倍に膨れ上がり、
国債は紙くず同然になったが、国の借金は100分の1になりました。

これがハイパーインフレの正体です。
「もし○○が起こったらどうするか?」
経営の神様はあらゆる角度から検討し備えよという。
しかし、情報を取り、調べるほど不安は広がるばかりです。

社員の不安を拭い去るのは 経営者の強い信念にある

不透明な世の中を心安らかに生きるにはどうすればいいのか…。
芥川賞作家であり、僧侶でもある 玄侑宗久さんが、
禅の智恵を活用した生き方「禅的生活」を提唱しています。

「禅的生活とは、予断を持たずに今の足場に立つということです。
明日はこうなると思って、そうならなかったら不愉快になります。
先のことは分かりません。予断を持つから苦しみが生まれるのです。
世の中は思うようにならないのが当たり前で、そこに人生の妙味がある」

今後どうなるか予測できないことを「予断を許さない」というが、
私たちは今まさに、そんな状況に置かれています。
しかし、あえて予測をせず、結果を前もって判断しない。
つまり、予断を持たず“今”を全力で生き切る。
これが禅的生活だという。

~ 置かれている状況に応じて 最善を尽くす ~
未来に起こるかも知れない予測に とらわれてはならない。
過去の出来事も参考にはするが こだわってもいけない。
“今”という瞬間に全力を注ぐことではないか。

まずは、全力で社員と家族の命と健康を守る。
これが今の経営者に与えられた絶対的な使命です。
要は、より緊張感を持って感染防止に注力することであり、
全身全霊で実行すれば、あなた自身が安心し、経営に集中できる。

そして、いつになったら終息するのか分からない上、
会社がどんな方針を出すのか、社員の心も不安でいっぱい。
~ 何がなんでも社員を守る! ~
非常時の今こそ、経営者のぶれない信念で安心を与えたい。

経営者はこれから 最大の難関に立ち向かう

最近ではコロナショックを境に、
「BCの時代」(Before Corona)と、
「ACの時代」(After Corona)という、
2020年を時代の節目とする見方があります。

たしかに、オンライン授業によって学校教育が変わり、
テレワークの浸透で仕事の仕方も変わるでしょう。
中小企業もこの変化に乗り遅れないように、
仕事内容を根本から見直す必要があります。

しかし、「社員の命を守ること」と「会社を潰さない」という、
解決すべき超難問が目の前にあることに変わりはない。
そして、この難問との対決は長期戦に突入しました。

経営の神様は、未来を予測して準備せよという。
ところが仏様の禅の教えは、未来を予測するなという。
まさに禅問答であり、正解のない経営の世界を表しています。

緊張感のある辛抱が続きます。
今も世界中で、そして日本国内のあらゆる地域で、
命がけで職務にあたる医療関係の方々には頭が下がります。
私たち経営者も勇気を持って最大の難関に立ち向かいましょう。

ノーベル賞学者の山中伸弥教授が名言を残しました。
「桜は来年も帰ってきます。人の命は帰ってきません」
その通り、桜はその時が来たら懸命に花を咲かせ、散りました。
今、与えられた命を精一杯に使い切るように五月の花が咲いています。

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